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デス日常

なんか生活してて生まれた文章たち。

歪/罪悪

 彼は車椅子に半分ずり落ちながらもたれかかり、顔は殆ど目までマスクで覆われている。頭髪は無く体は老いて、半袖シャツの袖口からは重力に抗えない贅肉が垂れ下がっている。彼の周りには誰も居ない。彼はひとりで爪先を使ってよろよろと前に進んでいる。不自然にずり落ちた体勢で、爪先を一歩ずつ動かして必死に何処かへ向かっている。私はもちろん彼を美しいと思い、それから人並みに罪悪感を抱く。彼の美しさは罪悪なのか、見せもんじゃねえ、と思っているとしたらそれは申し訳ない。けれども結局それすらどうでもいいのだ。私は美しい彼を眺める。彼が何処へ辿り着けることを祈りながら。


死への洞察:

私の死をたぶん私は知覚できないから
死は本当の意味で他人事

じぶんが非じぶんへ還る:
まあ本当は
じぶんも非じぶんの一部で
けれど目が覚めたままでは
それに気づくことができないから
目を閉じて初めて非じぶんを生きる

魂があったとして…
もし魂があるのなら
生と死はほんとに何も変わらない
うちに住むか隣の家に住むかくらいの違い
まっさらの地面に
誰かがびぃっと線を引いて
その上に家を建てただけ
きっとこの辺に住んでない人からすれば
見分けがつかない


こどもたちの歌

君は、壊れて半分しかない心の全てを
私にぽんと手渡した。
それで私は、もう半分の心を探して
そこらじゅうを歩き回っている。
しにたい、声が谺する、
しなないで、この声は呪いを溶かすのか?
私たちはどうしようもなく子どもで、
「私も何持っていないんだよ」
君にそう言うのが精一杯だった。
私は君のかわいい神さまで、
君は私の美しい傘だから。
私はいつだって悲しみに暮れている、
君以外に怯えてるから。
私はいつだって上手く息が出来ない、
君がいなくなってしまうから。
しにたい、しにたいって声が
谺して何処へも行かない、
何処へも行けないけれど
馬鹿みたいに真面目に
ずっと手を繋いでいよう、
呪いが君を呑んでしまうまで。


社会


「自殺してくれませんか」
あおい夕暮れは
渦のように回り
「自殺してくれませんか」
思い出せ、神殿
頭上の空は黒く
「自殺してくれませんか」
白い巨像は崩れ
治ることはない
「自殺してくれませんか」
ピンク色の夢に
ただ惹かれる夜

「自殺してくれませんか」

私は歩き出したい
壊れた様々に祈りを捧げ
みんなで呪いの言葉を忘れたい

どこにも行けないのだ
ことばはあまりにも強く巨大で
どこへ行っても私を掻き抱き
もとの場所へ戻ろう、戻ろうと囁く

私は、生きようと叫んだ
人々はぽかんとして虚な耳は
矮小なそのことばを拒んだ
逃げよう、逃げようと
大切な君の手を取ったって、
ことばは何処にでも染み込んでいる

それでも私は、生きようと呟き
君の、君だけの呪いを溶かす言葉を探す
「自殺して…「  」
私は巨大なこだまを拒む!
何処へもいけなくたって
大声で叫ぶ、
私たちの世界は暗すぎる。

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