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【Oscars】映画愛vs多様性!第95回アカデミー賞の展望と裏側を紐解く

1月11日、アメリカ・ロサンゼルスで第80回ゴールデン・グローブ賞授賞式が行われた。

スティーブン・スピルバーグ監督が自身の幼少時代を基に描いた、映画監督を志す青年の成長物語『フェイブルマンズ』がドラマ部門、
アイルランドの孤島を舞台に、親友から突如絶縁を言い渡された理由をひたすら追い続ける中年男性の姿をシュールに描き出した『イニシェリン島の精霊』がコメディ/ミュージカル部門で、それぞれ作品賞を受賞した。

『フェイブルマンズ』は、「ROMA/ローマ」(2018)、「ベルファスト」(2021)のように、【著名な映画監督が自伝的作品を自ら手掛ける】という最近のハリウッドのトレンドがあり、それが今度は、あのスピルバーグが手掛けるということで、公開前から高い評判を得ていた。

『イニシェリン島の精霊』もまた、娯楽作・大作が軒並み劇場公開された2022年において、作品の知名度が低いながら、早くからアカデミー賞を有力視された作品だった。
特に、今現在作品賞受賞最有力と言われていた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を退けての受賞は、ちょっとしたサプライズだ。

この作品賞に輝いた2作品は、いずれも作品の規模としては大きいとはいえないが、そのほか、今現在、本年度のアカデミー賞戦線をにぎわしているのは、『トップガン マーヴェリック』や『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』など、興行収入ランキングでも上位に名を連ねている“大作”が少なくない。

そもそも、2018年に北米で劇場公開された映画が1000本近くあったものが、新型コロナウイルスの影響により、2020年~2022年は半分程度の500本を切るという状況になり、特に2020年と2021年においては、高い興行収入を見込める大作映画や人気俳優が出演する映画は、公開が延期されるか、ネットフリックスなどの配信サービスに流れることが目立った。

その期間に行われた第93回と第94回のアカデミー賞でも、有名俳優こそ出演しても、興行では目立たなかった小規模な作品が主要部門を独占した影響もあり、全米の視聴率は、それぞれ歴代ワースト1とワースト2を分け合うという、不名誉な結果となった。

その反動もあってか、今年のアカデミー賞戦線には、大規模で派手な娯楽作が勢ぞろいしている。
トム・クルーズ主演/2022年全米興行収入1位の『トップガン マーヴェリック』、世界最高の興行収入を記録した「アバター」の続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』、「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼルとブラッド・ピットが手を組んだ豪華絢爛なエンターテイメント劇『バビロン』、エルヴィス・プレスリーの人生を描いた『エルヴィス』など、
例年にも増してエンタメ性に溢れた作品が、アカデミー賞戦線で結果を残し続けている。

しかし、純粋に優れた映画がそのままアカデミー賞の結果に結びつくかと言えば、そういうわけでもないのが、最近のアカデミー賞、そして今現在のハリウッドだ。

その中でも、つい先日行われたゴールデン・グローブ賞は、いくつかの問題を抱えている。

何年か前までは、アカデミー賞の受賞結果を左右する最重要前哨戦として、アカデミー賞授賞式の前に多くのハリウッドスターが一堂に会する一大イベントとして注目を浴びていたが、投票資格者がアカデミー賞とは大きく異なることで、アカデミー賞との受賞結果の”直結具合”にズレが目立ちはじめたり、ある不祥事が次々と発覚したことで多くのハリウッドスターたちが授賞式をボイコット・批判するなど、賞そのものの存続が危ぶまれるほどの事態に陥っている。

そもそもゴールデン・グローブ賞は、1943年、当時ハリウッドから冷遇されていた外国人記者らが独自の映画賞を設けようとして誕生したものだ。彼らはのちに、ハリウッド外国人映画研究協会(通称:HFPA)という団体になり、今に至るまでゴールデン・グローブ賞の投票資格を唯一持つ団体として、長年ゴールデン・グローブ賞を支えてきた。

しかし、そのHFPAのメンバーは、なんとしても受賞に漕ぎ着けたいノミネート作品の関係者らによる“行き過ぎた接待”をたびたび受けたり、日常的に映画関係者らに対してセクハラや差別的言動を取っていたことなどが判明し、大きな批判を浴びる。その上、一度メンバーに入ってしまえば亡くならない限りは半永久的にメンバーで居続けられるし、実力のある記者よりメンバーが気に入った記者だけが入会でき、結果内輪で固められた、100人にも満たない少人数のメンバーで受賞結果が決まってしまうという、自浄作用のない賞の存在価値やシステムに、多くの疑問の声が囁かれた。

更には、今年『ザ・ホエール』でアカデミー賞主演男優賞候補を確実視されているブレンダン・フレイザーが、過去にHFPAの元会長からセクハラを受けたことを告発し、ゴールデン・グローブ賞授賞式への辞退も表明。これを支持し、多くのハリウッドスターたちがゴールデングローブ賞授賞式への参加を取りやめるという事態となった。

こういった問題には、今現在のハリウッド、特にアカデミー賞は非常に敏感なのだ。
過去にはゴールデン・グローブ賞で主演男優賞を受賞し、アカデミー賞ノミネートも確実視されていた俳優が、その受賞直後にセクハラを告発されたことでノミネートを逃した例もあるし、2年連続でアカデミー賞俳優部門の候補者20人が全員白人俳優だったと批判を浴びれば、その直後の授賞式で大本命を下して作品賞に輝いた作品が、出演俳優がみな黒人俳優だったという例もある。

映画自体への評価はもちろんだが、特に近年では、性差別・人種差別・多様性の尊重といったメッセージ性が色濃く出た作品が評価を受けやすくなっている。
実際、2024年に行われる予定の第96回アカデミー賞以降は、主要キャストやスタッフの女性や非白人、障がい者やLGBTQの割合がある一定数に達していないと、作品賞の資格すらないというルールが適用される。それだけ今のハリウッドは、純粋な映画の評価だけを重んじないという強い意思があるようだ。

そんな“大変革”の前、最後のアカデミー賞のノミネートはどのような結果になるのか。

アカデミー賞ノミネーション発表は1月24日。
楽しみに待ちたいところだ。

【1/12時点での第95回アカデミー賞作品賞候補・予想】
アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
バビロン
イニシェリン島の精霊
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
フェイブルマンズ
TAR ター
トップガン マーヴェリック
The Woman King
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執筆:S.O.

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