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モーゼの十戒

『お車で来られますか?店舗の場所分かりますか?はい。では、明日の14時、店舗でお待ちしております。』

『東京』と言うところで働く事になった俺はレオパレス21で部屋を借りる事になりました。

賃貸契約を結ぶため、レオパレス21池袋店へ行かなくてはならない。

『池袋』当然行った事などない。テレビの画面で見たことがある程度だ。


しかし便利な世の中になった。

住所を入力するだけで『カーナビゲーション』なる物が、俺を『池袋』まで導いてくれるのだ。

♪♪ピンポーン『次の交差点を左折です。』

♪♪ピンポーン『次の交差点を右折です。』

『カーナビ』が指示するとおり道を行けば、確実に目的地に到着するのだ。


だだ、この『カーナビ』なる物

時折、意味不明な指示を出す。

♪♪ピンポーン『300メートル先、直進です。』

えっ?直進してるのに、それいる?

♪♪ピンポーン『次の角、手前斜め右方向です。』

手前?斜め右方向?って?どっちやねーん!!

『カーナビ』にツッコミを入れたりする。


だが、東京を知らぬ俺は、

この『カーナビゲーション』だけが唯一、信頼出来るパートナーで、彼女の音声に従って行くしかあるまい。


♪♪ピンポーン『次の交差点右折です。』

指示に従い右折する。

車1台がやっと通れる細い道です。

これ行けるんか?

*でも、俺は『カーナビ』の彼女を信じで進む他ありません。


♪♪ピンポーン『次の角を左折です。』

また、車1台がやっと通れる細い道です。

これ行けるんか?

*でも、俺は『カーナビ』の彼女を信じで進む他ありません。


200メートルほど走った先に多くの人の流れが見えて来ました。

どうやら池袋駅が近いようだ。


♪♪ピンポーン『次の角を右折です。』

右折?右折?この人波の中を走れと言うことか?

*でも、俺は『カーナビ』の彼女を信じて進む他ありません。

人の群れの流れの中へ、池袋駅方面へと車を右折させました。


日曜日の池袋駅周辺は想像を超えた人でした。駅に近づくほど人の波が大きくなり、次第に群衆へと変化した。大阪で言えば『戎橋筋』のようだった。

道いっぱい『人!人!人!』肩と肩が当たる程の人の多さです。

えっ?もしかして、この道は歩行者天国か?

『カーナビ』歩行者天国までは区別出来へんとか?

『カーナビ』唯一のパートナーよ!信用して大丈夫なんか?

お前だけが『頼り』やねんで!!

一方的に話して来る『カーナビ』の彼女は肝心な時は無視をする。

『池袋』知らない土地で不安が大きくなって来ました。

それでも群衆をかき分け、非常識にも車は進んで行きます。


その姿は、まさに『モーゼの海割り』です。


凍てついた痛みまで覚えそうな、きつい視線が容赦なく降り注いだ。

『えっ?こんなところ?車で走る?』

『こいつ!頭おかしいんじゃねえの?』

『ここは歩行者天国!!知らんねーの!!このバカ!!』

『この大阪ナンバーの車!マジ!やべー!!』

『こいつ!!常識ねえ!!』

群衆の突き刺さる視線を見れば、話さずとも『心の声』が『標準語』で聞こえて来ました。


待ってくれ!俺は悪くないんや!『カーナビ』が行けと言うんや!俺は『カーナビ』の指示に従っただけや!『カーナビ』が俺をはめたんや!

デモ隊のような群衆を切り裂いて、車はゆっくりと人の波を押し流がして行きました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


♪♪ピンポーン『目的に到着しました。』

群衆の群れの中、左手にレオパレス21の店舗が現れました。

車は予定時刻に目的地に到着したのだ。


いやいやいや!!この群衆の中!繁華街の路上!この状況!!

『ここに車を停めれるかーい!!!』


目的地に到着したが人波に押され、店舗は行き過ぎるしかなかった。


♪♪ピンポーン『次の角を右折です。』

『カーナビ』の彼女は諦めず、まだ俺をあの店舗まで誘導する。

店は分かったから!もう許してくれ!!許してくれ!!

俺はカーナビのタッチパネルを操作し、この優秀な『彼女』を黙らせた。


コインパーキングを探し求め、やっとの思いで車を停めてレオパレス21へ向かった。

『30分ほどお約束の時間、遅れましたが?何かありましたか?』

ああ、確かに色々とあった!!

『遅れてすんません!大阪から来たので土地勘なくて!』

ほんまは30分前に店舗前に到着しててんけどな!!


『カーナビゲーション』信頼出来るパートナーであるが、

時として、我々を奈落の底へと誘う魔物と化す!!


♪♪ピンポーン『300メートル先、直進です。』

*でも、俺は『カーナビ』の彼女を信じて進む他ありません。


野風 ぐぐる。

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