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今日、天体観測しない?

彼女が何か気になる物を見つけたようだ。『見て!見て!望遠鏡売ってるよ!』彼女は小走りに売り場へ向かった。手前にある箱を持ち上げ『土星の輪が観れるって書いてるよ!すごくない?』俺達は箱に描かれた土星の絵を見て星空ロマンに引き込まれた。

洗剤を買いに来ただけなのに天体望遠鏡の箱を肩に抱えホームセンターを出た。


太陽が西に傾いてきた。出発だ。意気揚々と車に乗り込み奥多摩湖へと向かった。湖に一番近い場所に車を停め、キャンプ用の椅子ニ脚を取り出し順に彼女に手渡した。俺は望遠鏡を手に取り高々と夜空に向けた。散々と輝く星達と『眩しいほどの満月』が俺達を照らした。


取扱説明書を開いた。『えー土星の見つけ方?まずは星座早見盤を使い、日時と時間を合わせ・・・あとは方角・・北ってどっちなん?

あっち?うん?こっち・・かな?』彼女が指を差す。

ほんまかいな!

俺は望遠鏡を覗き込んだ。ボヤーとした光が・・いや、ぼやけて見えない。説明書の通りにピントを合わせてみるも全く改善の余地がない。星座早見盤をクルクル回してみるも、夜空の星と合うわけもなく、『あかん!全く見えん!!どこを見ているのかもわからん!!

ちょっと代わって!』不甲斐ない俺の肩を押し望遠鏡から遠ざけた。望遠鏡を覗き込んだ彼女は何かぶつぶつ言いながらピントでも合わせている様だ。

半ば諦めた俺は夜空に浮かんでいる満月を見ていた。
見つけた!見つけた!』彼女が叫んだ。

えっ!まじで!!ノーベル賞クラスの快挙やで!!

見つけた!見つけたよ! 月!月!月!!月 発見!!

彼女は『月』と言う新星を発見したのか?

土星やなくて?月?月?

『そう!月!月!月が見えるよ!!!』とっても嬉しそうです。

まじでアホなのか?月は肉眼でも十分見えてんねんけど・・・


『月の・・月のクレーターが見えるよ!!』

『えっ?クレーター?代わって!ほんまや!あれ?人が、歩いてるで!!』

『えっ!?』

『嘘やがな!!』


望遠鏡を覗いて月を見つけ、はしゃいでいる彼女の笑顔は

どの星よりも輝いていた。


野風 ぐぐる

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