3回:映画館、青線

萬代福影城 it's a wonderful cinemas

 台中には二番館(2ヶ月ぐらい遅れて新作を上映する映画館)が2つある。1つは見た目も立派で台中教育大学の近くにある全球影城。もう1つは中華路夜市と台中公園の間に位置する、古めかしさを残す萬代福影城。
 私は映画の大半を萬代福影城で見ている。なにせ安い。一般80元(約300円)、学生なら60元、レイトショーとアーリーショーはなんと40元。先週もキングスマン2とブレードランナー2049を観てきた。味のある外見だが6スクリーンあり上映設備自体は新しいため、映画祭の会場になることもある。また台中市内ではインディペンデント系の上映はここだけである。この2年弱暇があれば萬代福か国立美術館へ足を運んでいる。そしてそれだけ行けばその地域の文脈もわかってくる。

悪所

 いつものように件の映画館からシェアサイクルスタンドまで歩く途中、路地を散策するのが趣味なので、暗がりにもスーッと足が引き込まれた。街灯もない隙間に踏み込んだ瞬間、傍らの扉が開いて「お兄さん」と来たもんだ。これには流石に面を食らった。映画の余韻も吹き飛んだ。こっちの心境など知る由もないお姐さんは赤いLEDに照らされて笑みを浮かべている。そして煙草と檳榔によって熟成された声色で「この娘は1000元、あの娘は800元」などと夜市の行商みたいに売り込んでくる。私も変に律儀なところがあるので「ふーむ」とか言いながら一応相槌を打つ。一通り聞き終えたところで路地を抜けた。すると何事もないようにかき氷屋と飯屋の間に出る。映画館があり、媽祖廟があり、屋台がある。その隙間にたまたま青線もあった。ほんの4つ5つ軒を連ねただけの線というより点である。しかしこういうのを悪所というのだとも思った。身を持ち崩すことも叶わないような些細な悪所である。

公共性

 悪所、とまるで落語の舞台のように書いたが私娼は台湾では非合法の存在である。そして黙認か弾圧か或いは権利を得られるかは社会の雰囲気に左右される。台中市に関しては現市長になってからは弾圧の方に舵を切っている。例えばマフィアと結びついた地下風俗を取り締まるだけならまだしも、街娼を一斉摘発したり。
 台湾においては今後もセックスワーカーは微妙な立場を強いられるだろう。リベラルな社会体制と言っても、スウェーデンやノルウェーと台湾では当たり前に異なる。東アジアにおいて最も先んじて同性婚の権利を認めた公共性の高さが一方で不寛容さを含んでしまう点については今後も留意していきたい。

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