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坂の途中の邸宅 ヨドコウ迎賓館:旧山邑邸 フランク・ロイド・ライト【お宅訪問3】 兵庫県芦屋市


兵庫県芦屋市を中心とする六甲山系の山裾あたりには、実業家系の魅力的なミュージアムがいくつかあります。例えば、

・香雪美術館(神戸市東灘区):朝日新聞創業者村山龍平むらやま りょうへい
・白鶴美術館(神戸市東灘区):白鶴酒造7代加納治兵衛かのう じへえ
滴翠美術館(芦屋市):山口財閥4代山口吉郎兵衛きちろべえ
黒川古文化研究所(西宮市):黒川証券創業家2代黒川幸七くろかわ こうしち

このあたりの適度な高台(山手幹線の北側)エリアには、富裕層の邸宅が多く、上記の中には自らの邸宅をミュージアム化したトコロも。
今回の主役も実業家の元別邸なのですが、特に美術品のコレクション展示はなく、建物そのものがお目当てとなる住宅建築ヨドコウ迎賓館です。




高級住宅地として知られる芦屋市の人口は93,000人と意外に少ない。西隣の神戸市は1,490,000人、東隣の西宮市は480,000人。関西の大動脈国道2号線と並行に走る山手幹線(ヨドコウ迎賓館付近)は、東西に真っすぐ伸び沿線にはクリーンな街並みが続きます。そこから北側(山の方)へと入って行くと、住宅街が多くやや迷路的になります。

立地はやや特殊

ヨドコウ迎賓館へは芦屋川沿いの県道344号線を北上します。高台にあるのですが、途中からライト坂と呼ばれるかなりの急坂に。駐車場は迎賓館の下側にあり、邸宅入口までの上り坂は歩道もやや狭い。坂を下りてくる赤ちゃん連れの夫婦とすれ違いましたが、ベビーカーには勾配が急過ぎるようで子供を降ろし抱えていました。ちなみに坂は六甲山まで続いていてカーブも多い事から、下りでの車の事故が多いそうです。原因はブレーキのフェード。立地はそんな地形なので、部屋からの眺めは良さそうです。


はじまりは山邑邸

造り酒屋櫻正宗の8代目山邑やまむら太左衛門たざえもんの別邸は1924年に竣工しています。基本設計はフランク・ロイド・ライト(1867-1959)、実施設計は弟子の遠藤新えんどう あらた(1889-1951)。重要文化財。
櫻正宗は兵庫県伊丹市が発祥(1625年)で、1717年に初代太左衛門が灘五郷の1つ魚崎で創業しています。摂津伊丹は江戸時代には日本酒の産地として知られ、江戸では下り酒と呼ばれ人気でした。後に灘での宮水みやみず(おいしい水)の発見や生産設備拡張のための敷地、そして流通等を理由に酒造りは次第に伊丹から灘へとシフトして現在に至ります。


フランク・ロイド・ライト

設計者のF・L・ライトはアメリカの建築家で、近代建築の三大巨匠の1人。日本にもいくつかの作品が現存しています。日本では住宅建築を3棟手掛けていますが、2棟が現存。山邑邸以外には、
林愛作邸(東京都世田谷区):1917年、帝国ホテル支配人、現在は電通八星苑(非公開)
福原有信邸(神奈川県箱根):1920年、資生堂創業者、関東大震災で倒壊(現存せず)
 

(参考)日本に現存するライト建築

自由学園明日館(東京都豊島区)
 

帝国ホテル東京に設けられている旧ライト館コーナー

100周年展示
100周年展示 かつての客室の一部と制服

ライト関係の資料は新本館のラウンジ横に展示されています。
展示物は時々変更されているようで、2023年には100周年の特別展示が。
旧ライト館の一部は明治村(愛知県犬山市)に移築・現存しています。

帝国ホテル100周年 パンフ2023年版
 

2023年から2024年5月にかけて、ライト展が愛知・東京・青森と巡回していました。国内で初の回顧展は1991年に巡回しています。当時の図録を何故か10年ほど前に古本屋で入手しています。内容はライト建築の写真や図面、パースに模型とかなりのボリューム。論考というよりは論文が多数掲載され、素人の自分にはやや難解(30年前の文章だし)。帝国ホテルライト館をはじめ現存しない建物の写真や計画案の図面も掲載されているので資料集には最適。CADのない時代の図面、そして美しいパース。絶版ですが比較的入手は容易です。
2024年巡回展の図録は書籍として販売されていますが、B5サイズのようなので手を出していません(図録はA4派)。

フランク・ロイド・ライト回顧展 図録
発行:1991年 293ページ 毎日新聞社
編集:ライト回顧展実行委員会 セゾン美術館
京都国立近代美術館 横浜美術館
北九州市立美術館 毎日新聞社

ヨドコウ迎賓館に戻ります。


淀川邸から独身寮、そして迎賓館

山邑邸は1947年に所有が淀川製鋼所に移り、ヨドコウ社長邸になります。
1971年から1973年には独身寮に。今となっては寮にしては贅沢と思えますが、当時はどうだったのでしょうか? ただ仕事からの帰宅で最後に急坂を登るのはちょっとイヤかも。
1974年に重要文化財に指定され、1989年ヨドコウ迎賓館として一般公開。
1995年の阪神大震災で被災していますが、その前後にも何度か保存・修復工事が行われています。築100年の建物ですが、最近増えつつある集中豪雨を考えると地盤の方が心配かもしれません。

兵庫県芦屋市山手町3-10

パンフ 2023年版

車寄せ、エントランスから重厚な大谷石がお出迎え。

特徴的な多角形の家具類。座れます。

内装は少しうるさい印象を受けます。

模型で見るとステップフロアのようで、それほど高低差は感じません。

和室にもそれほど違和感はありません。欄間はライトスタイル。

床の間の上の明かり窓は、日本建築では見ない気がします。

食堂にも暖炉があり、こちらの明かり窓も面白い。

あふれるライトスタイル。

背もたれ?に大谷石はイヤです(痛そう)
屋上から南側の大阪湾方向を見下ろします。
西の神戸方向、高層の建物群は六甲アイランド(たぶん)
東南は大阪方向 ブロックを重ねたような芦屋浜シーサイドが見えます
左側に見える高層ビルは大阪咲州庁舎(たぶん)
開閉はたいへんそう


邸宅としては、ディテールに少しうるさい印象が残りました。
先述の図録を読むと、帝国ホテルが完成した当時も外観の豊かな装飾に対してそういった声があったそうです。ただしそれはライトさんが帝国ホテルと皇居が調和するようにと意図し、日本の権力者の建物は装飾的(日光東照宮的な)であるコトを伝統にしていると認識したからだそうです。また装飾がライト建築の特徴である有機的とも。

ウーン・・・よく分からない(笑)

一方、客室のデザインは非装飾的にまとめられていたそうですが、それは「日本の伝統的な室内の簡素な語法を反映している」と。

ますます分からん(笑)

ヨドコウ迎賓館は和風でも洋風でもなくオリジナルな無国籍デザインに思えます。いろいろなスタイルがライトさんの頭の中で咀嚼され図面化されたような。また4階建とされていますが、地形を生かして斜面をステップアップしていくのも面白い。各居室がゆるやかに繋がるのは日本的ともいえます。

有機的とは外観のデザインだけではなく、建物内の動線や住まい方なのではとボンヤリ考えました。空間の構成に住み手がいろいろと考えられる余白というか幅がありそうです。
当時の方々はどう感じたのでしょうか?




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