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栄光なき良コミック選書 オーレ! 編

竜神は昔からコミックが好きで結構読んでるんですが、自分が気に入った作品が悉く打ち切りを食らう、と言った特殊能力があります。好きになった作品に申し訳ないなという気持ちが大きいくらいです(汗)せめてもの罪滅ぼしに作品紹介できればと考えます。今はkindleとかで読めたりもしますしね。【4189文字:かなり読みごたえがあります】

オーレ!

あらすじ

過疎化の進む、上総市の役所に勤務する「中島順治」は街の復興を夢に持ち、地元のプロ・サッカークラブに出向する。そこで、スタンドのサポーターの熱狂ぶりに可能性を感じ、クラブ強化を計るが、チームは貧乏で弱小・・。それでも1部昇格を夢見て、22万人の市民に感動を与えるべく、リーグ優勝を目指す挑戦と冒険の旅が始まる!(Amazon)

竜神は好きでした

サッカー漫画です。はい、竜神も北海道コンサドーレ札幌のサポの端くれなのでサッカー漫画も大好きです! ‥‥ごめんなさい、嘘です。自分は心が狭いので、特にJリーグが描かれている漫画を見るとこんなにうまくいくわけねーと拒絶してしまうんですよね。なので、あの『ジャイアントキリング』も正直苦手です。あんな、代表クラスがポコポコ育つなら苦労ねー。(好きな人本当にごめんなさい。)

そんな竜神も(竜神だから?)例外的に『オーレ!』は大好きな漫画です。好きなポイントは4つ。
1.底辺のクラブの在り方がかなりリアルに描かれている
2.各人物の覚悟と行動がかっこいい
3.クラブチームの未来に関する提言がある
4.見事な打ち切られっぷり
以上、語らせて頂きたいと思います(笑)

1.底辺のクラブの在り方がかなりリアルに描かれている

オーレ!の最大の特徴がこの点です。作者の能田達規先生も当時から愛媛のサポーターであり、かなり真に迫った描写が多いです。金が無い、人がいない、物が無い。少予算規模のクラブだと、どこも似たような感じだと思います。作中でもかなり哀しいエピソードが描かれていくのですが、中でも竜神の印象に残ったのは2つ。
1つは、主人公の中島が出向後まもなく、人手が足りないためボランティアスタッフの手伝いとして試合運営のサポートをしているシーンです。
慣れない中島が試合後に出たゴミの分別に苦戦しているところ、その日ベンチ入りできなかったクラブのレジェンド芝田が駆け付けます。周囲の選手にも声をかけて、自発的にゴミの片づけを始めます。そこに古参のボラスタ吉見祥子が駆けつけて、中島に対して大激怒。
『クラブのレジェンドに、ごみ処理をさせるなんて…』
それに加えて、日頃中島のお役所然とした仕事ぶりも気に入らない吉見は、感情を中島にぶつけていきます。
それに対し、中島は吉見にクラブを応援する楽しみを問い、その上で
『感動を独占しているあなた達はそれでいいだろう、ただ、そんな事は一般の人間には伝わらない。』
『上総オーレは上総市民に負け犬根性を植え付けるために存在しているのか?2部リーグの底辺でウロウロしているクラブなんか上総市にとって何の役にも立たない!税金を食うだけのこんなクラブいらないんだよ!』
とぶつけ返します。
中島と吉見の大激突、第1ラウンドです(笑)


これ両方ともわかるんですよね…。吉見の言い分も痛いほどわかります。金が無いが故に本来選手がやる必要のない仕事を、しかも創設時からの功労者にさせている悲しみや情けなさ。芝田が自発的にやってくれるようないい人なんでなおさらですよね。
ただ、中島の言う事ももっともで、一部の人間だけが楽しんでる事に なんで税金を突っ込まんといかんのか、と。札幌でも特に昔は良く言われましたからねぇ…。金が無いってのは辛いものです。ただ、中島の言い分は凄いですね(笑)そこまではっきり言っちゃダメだろうと(笑)


もう一つは、エースストライカー竹内の完全移籍にかかるシーンです。
20歳の竹内は浦和レッドスターからのレンタル中で、出場機会を得るためにオーレに来ています。シーズン後半には成長しチームに欠かせない存在となりました。金が無いために竹内との契約延長が難しいと聞いた中島は、サポーター有志での後援会を立ち上げ、集めた資金を竹内の完全移籍のために使う事を考えました。後援会の準備も整いかけた時、メンバーから中島に問われます。『竹内には本当に残留の意思があるのか?』と。
不安になった中島は、最終的な意思確認のため竹内のマンションを訪れます。行きがかり上、吉見もその席には同席しています。

サッカーに専念するため、何もない部屋の中で対峙する3人。
そこで、中島は竹内の真意を聞かされます。
『金を用意してもらってもオーレに完全移籍する意思はない』と。動揺する中島。竹内は浦和に復帰し、五輪出場・ワールドカップ出場する事が夢であると中島に告げます。失意の中島ですが少しずつでも環境を良くしていくために、上総を負け犬のままにはしないために、後援会は続けると吉見に話すのでした。


お金が無いから選手に残ってもらえない、と言うのはある程度理解されるかと思うんですが、より深刻なのはお金を払っても残ってもらえない事ですね。チームの戦績や設備、将来性や格を鑑みてクラブを去る優秀な選手も多いです。この点で涙を呑んでるサポの気持ちは、頭痛がするほどよくわかりますね・・。

2.各人物の覚悟と行動がかっこいい

吉見さんの決断とか、レジェンド柴田の想いとかいろいろ好きなシーンは有るのですが…。紹介したいのは、N2最終節の対横浜キングス戦の中のお話です。
前節に敗れたオーレは奇跡の逆転勝利を目指し、勝ち点3が最低条件となります。対するはN2首位、キングヤスを擁する横浜キングスです。こちらも昇格がかかっており、勝てば優勝して昇格、負けるともつれてしまう状況です。当時になぞらえて、かなり守備が堅いチームとして描かれています。(モデルになっているのは横浜FC)
絶対に先制点が欲しいオーレですが、試合開始1分キングヤスにPKを奪われ、そのまま失点してしまいます。動揺する選手、監督、観客たち。そのまま前半も終了し失意の中のミーティング。監督すら動揺してまともな支持が出せない中、レネが的確な指示を選手たちに与えていきます。
なぜ冷静なのか、中島はレネに問います。返ってきた答えは『思い入れの差だ。俺たちはどこか他人事として捉えている、連中ほどファミリーになっていないからだ。』と。
ピッチサイドに戻った中島は、周囲ほど試合に集中していない自分に気が付きます。所詮は市役所から出向でやってきた第三者ってことなのか…。

レネ・ヴォルクガングの決意

後半開始早々、自らドリブルで仕掛けゴール前へ。強引な仕掛けと思わせながら空いたスペースへパス。そこに走りこんだ竹内がシュートを決め同点に追いつくのです。
ピッチに出る前、レネは中島に伝えています。
『確かに俺たちはまだ「よそ者」だ。…だが、よそ者にはよそ者の、「第三者」にしかできない仕事があるハズだ』
レネは冷静に、しかも大胆に自身の言葉を証明しました。
その事が中島の勝利に対する大きな決断を決意させる事になるのです。

中島順治の決断

レネのプレイに自分もできる事が無いのかと模索する中島。
そんな中で他会場で試合を行っている富山が先制します。富山が勝てばオーレは降格が決まってしまう。キングスは交代選手を利用して情報をオーレ選手に伝え動揺を誘います。完全に試合のペースをつかむ横浜キングス。

そんな中、突然中島が他会場の状況を確認します。昇格を争っている柏と神戸の状況はどうなのか…と。そんな中で柏が2失点目を喫し、敗色が濃厚である情報が伝わります。そこで、中島がなりふりを構わず一つの決断をするのです。

プレイ中、突如、横浜キングスサポーターから大歓声が起こります。
場内のビジョンには他会場の試合経過として神戸の2点ビハインドが表示されていたのです。大喜びの横浜キングスサポーター。
これこそが、中島の掟破りの秘策です。ベテラン選手の多い横浜キングスは試合に関する見切りが早く、勝たなくても良いこの試合での集中力・気持ちの維持がしづらくなるよう仕向けたのでした。
その後、空気を読まないキングヤスの猛攻などもありましたが、オーレは逆転に成功。入れ替え戦へ臨む事となるのです。


試合の描写としては、ここが一番盛り上がったかなあって思います。ファミリーとよそ者にフォーカスして、必ずしもよそ者が悪いわけではない、出来る仕事は必ず有るんだと示すこのエピソードはめちゃくちゃ格好いいなぁと思います。改めて文字にして途中経過のくだりってわかりにくいかもしれませんね。通常、他会場の途中経過を表示するのってハーフタイムや試合後くらいしかやりません。選手たちのプレイの妨げになるので。そこを敢えて破ってまでチームの力になろうとした、と言う事なんです。

3.クラブチームの未来に関する提言がある

中島は入れ替え戦後、レネに誘われてドイツのサッカーに関して見て回る事となります。ドイツではスポーツシューレの話とかが語られていくんですが…。これは作者さんが読者の方に伝えたいって気持ちがバシバシ響いてきます。当時から日にちは経ったものの、まだまだ日本との差は大きいですね。普通のサッカー漫画でなかなかこんな事に触れられないので、そこも斬新、と言えば斬新でした。

4.見事な打ち切られっぷり

ドイツから帰ってきた後は、3話で終わってしまいます。なんという詰め込み。打ち切られ感が凄いです。単行本ではエピローグが書き下ろされていますので、連載時よりはちょっとフォローが利いてますね。一応最終話では最後どうなったのか…とオチも付けてはいますので、物語的には完結しています。

実際のところ

弱小クラブの、特に運営や経営に目線を向けている段階で一般受けはしない事うけあいではあります。能田先生の作品でも、オレンジのように選手目線だとまだ一般受けはすると思うのですが。ですが、これもプロサッカーであるって事は広くわかってもらいたいなって気持ちにはなります。Jリーグファンの方で未読であれば、一回手に取って欲しい作品です。この作品、十分な尺が有ったらどうなったんだろう。そう思わずにはいられない自分がいます。
ここまでお読み頂きありがとうございました。


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