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週末読書メモ36. 『星野リゾートの事件簿』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

フラットな組織を作り上げるという決断。その決断をやり切る凄み。

前線に立つのとは違う形でのリーダー像を知るには、最高の一冊でした。


今や、日本有数のリゾートカンパニー、星野リゾート。

本書では、「リゾート運営の達人」というビジョンの実現に向け、自社のホテルだけでなく、他社のホテル運営も着手し、形になりつつあった頃のことが描かれています。

瞠目すべき内容は、社長星野佳路さんのリーダーとしての姿です。

こうした”事件”が星野リゾートでは、次々に起きる。そのたびに星野はスタッフの行動を見守り、問いかけ、アドバイスする。決して細かい指示は出さず、スタッフが自ら動き出すのを待つ。その間、星野はスタッフに対して、繰り返し、こう語りかける。
「お客様の満足度を高めよう」
星野は、現場では脇役どころか、姿さえほとんど見せない。必要なときに、会議に参加したり、メールを送ったりして、勇気づけるだけだ。それでも、星野が掲げた「リゾート運営の達人」というビジョンはスタッフの間に浸透し、再生のパワーを生み出している。

基本的な方向が定まると、具体的なサービスの中身はスタッフに任せる。それが星野のやり方だ。「現場を知るスタッフが、『お客様に喜んでいただきたい』と思うようになったとき、大きな力が生まれる。その力にはどんな専門家も勝てない」と考えるからだ。

自律的なメンバーを生み出すため、フラットな組織にすることを決断した星野さん。そのために、自らがやるべき・やるべきではないことを、これほどまでもか…というほどに徹底されています。

その気になれば、いくらでも関与することは出来る、けれど、断じてしない。そこに込められた凄まじい意志を感じます。


加えて、読み手が注目すべきことは、この星野さんの振る舞いが、後天的に身に付けたものであるという事実です。

少し長いですが、下の引用部分は、噛み締めるように読み入りました。

星野が1991年に父から経営を引き継いだとき、会社の古い体質を変え、ムダや非効率を解消する必要を感じた。星野は強い危機感を持ち、トップダウンによって事業のあり方を全面的に見直すことにした。顧客満足度に基づく数値管理を導入するなど次々に改革を進めた。
改革は少しずつ成果を上げたが、同時に社員が一人また一人と退職し始めた。スタッフが定着しなければ、しっかりしたサービスを提供できない。顧客満足度は上がらず、売上高も伸ばせない。
星野リゾートは当時、軽井沢のローカル企業であり、全国的に見れば知名度は低かった。このため、新たに社員を募集しても思うように人が集まらなかった。星野は退職者の増加による人材難という大きな課題に直面した。

何とか退職を思いとどませようと、星野は「辞めたい」と申し出た社員と徹底的に話し合った。「辞めないでほしい」と説得したが、なかなか社員の気持ちを変えることはできなかった。
話し合いを通じて、星野は重大なことに気づいた。社員が辞める最大の理由は「組織に対する不満」だった。星野はトップダウンで改革を進めたが、社員は命じられて動くことに疲れていた。

これは…

ここ状態から現在のフラットな組織を作り上げたのか。

そのためには、何よりも星野さん自身の人格を変える必要があったことは言うまでもなく、それをやり遂げた凄み。

上記の課題は、多くの中小企業が抱えるものだと思われます。

リーダーがトップダウンを変えられないゆえ、メンバーが成長しきれない・疲弊する。この課題を乗り越えるとは如何なるものか、本書はそれを読者に教えてくれます。

(更に星野さんが秀でていることは、フラットな組織を、欧米のグローバルカンパニーと肩を並べるための戦略上の強みにしていることです)


本作の続編となる、その後、2010以降から2020年のコロナ禍までを描いた『星野リゾートの事件簿2』では、星野リゾートとそのメンバー等のその後の進化を見ることが出来ます。


また、兄弟作の『星野リゾートの教科書』は、「リーダーと本」をテーマにした本だと日本屈指の名作です(自分の仕事のスタイルの一部になったほど影響を受けています)。

(抜粋『星野リゾートの教科書』)
私はこれまでの経験から「教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」と確信している。課題に直面するたびに、私は教科書を探し、読み、解決する方法を考えてきた。それは今も変わらない。

本を読むことでしか前には進めない、と感じている自分にとって、これほど背中を押してくれる言葉はありません。


星野さんといえば、この記事も何度も噛み締めたくなる内容でした(星野さんのインタビューはどれも秀逸で、その言語力が際立っています)。

特に、今でこそ全国各地に50ヶ所を迫る拠点がありますが、家業を継いでから、10年間はずっと軽井沢に留まり、経営基盤を固めることに全身全霊を注いでいたという事実(繰り返しになりますが、10年間も)。

別の取材で、この10年があったから、その後の成長があると述べられていたのですが、一体、この時、どんな想いで毎日を過ごしていたのだろうか。

大きなビジョンに対し、不足している資源。一方で、ビジョンを持ったことで、伴う苦悩と困難。それらを抱えながら、戦われていただろう毎日。

いつかお会いできる日があれば、この10年間の日々のことを、ぜひ伺ってみたい(いつか星野さんに行き当たった時に、しっかりと対話ができる状態になれるよう、これからも1歩1歩積み重ね続けていこう)。


【本の抜粋】
こうした”事件”が星野リゾートでは、次々に起きる。そのたびに星野はスタッフの行動を見守り、問いかけ、アドバイスする。決して細かい指示は出さず、スタッフが自ら動き出すのを待つ。その間、星野はスタッフに対して、繰り返し、こう語りかける。
「お客様の満足度を高めよう」
星野は、現場では脇役どころか、姿さえほとんど見せない。必要なときに、会議に参加したり、メールを送ったりして、勇気づけるだけだ。それでも、星野が掲げた「リゾート運営の達人」というビジョンはスタッフの間に浸透し、再生のパワーを生み出している。

基本的な方向が定まると、具体的なサービスの中身はスタッフに任せる。それが星野のやり方だ。「現場を知るスタッフが、『お客様に喜んでいただきたい』と思うようになったとき、大きな力が生まれる。その力にはどんな専門家も勝てない」と考えるからだ。

「負けるな。頑張れ、新人」
川村のメールに対して、真っ先に反応したのは、社長の星野だった。東京のオフィスにいた星野は、川村のメールにピンと来た。
(中略)「間違ってなかった。声を出して良かった」
川村は同時に、短い言葉に込められた星野の励ましがうれしかった。

「リゾート運営の達人になる」というビジョンに対して、長屋は「何だかユニークな会社だ」と感じた。誘われるまま、後日、星野リゾートの転職セミナーに足を運んだ。
会場では、社長の星野が、日本の旅館・ホテル業の将来や、会社のビジョンを熱心に語っていた。

星野はコンセプト委員会のメンバーに対して、自分の疑問を語った。
「ファミリー客の親たちは、リゾナーレに滞在している間、本当にくつろいだ時間、楽しい時間を過ごしていると言えるだろうか」
星野の問いかけによって、メンバーの議論が一気に加速した。
(中略)星野は考えるうちに、新たな疑問が浮かんできた。そして、コンセプト委員会のメンバーに対して、二つ目の問いかけをした。
「ファミリーで旅行に来た場合、親は滞在中、子供とずっと一緒にいるのが本当に楽しいのだろうか?」

星野はあるとき、古谷を前にこれまで歩んできた道のりを語った軽井沢の温泉旅館の長男として生まれ育ったこと。家業の旅館を少しでも良くしようと奮闘してきたこと。自社での取り組みを社外にも広げてきたこと。星野は一つずつ、丁寧に説明した。

例えば、お客様からクレームを受けたとき、担当者をしかりつけたとしても、そのスタッフは怒られた印象だけで、事件から何も学ぶことができない。だから、私はスタッフをしかることはない。事件に直面したスタッフに「考えさせる」ことを重視する。
(中略)ただし、すべてのスタッフが個別に事件に遭遇していたら、会社は混乱し、大変なことになってしまう。だから、ある職場で起きた事件は、ほかの職場にいるスタッフとも共有することが大事である。

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