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週末読書メモ27. 『旅をする木』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

「目の前の現実を生きる」。

そんな大切なことを思い出させてくれる一冊でした。


本書は、長い年月、アラスカで自然と動物達と向き合った筆者が、自らのその深い感性と表現力で綴った言葉に溢れています。

アラスカの荒々しくも繊細な自然。儚くも力強い生命を宿す動物達。

写真家として、それらの現実と向き合い、感じ取り続けた筆者。

人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右される一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。

太平洋の広さ、青さは、圧倒的だった。毎夜甲板に出て、降るような星を眺め、うねるような太平洋の音に耳を傾けた。何日も海だけを見ながら過ごしていると、自分が暮らしていた陸地は不安定なつかのまの住み処のようで、海こそが地球の実体のような気持ちにとらわれた。海は限りない想像力と、人間の一生の短さをそっと教えてくれた。

ずっと昔、初めて行った北極海の海岸で、大きな流木の上に止まる一羽のツグミを写真に撮ろうとした日のことを覚えています。
(中略)その流木は風景の中のひとつがテリトリーの匂いを残すひとつのポイントになっていたのかもしれません。また流木はゆっくりと腐敗しながらまわりの土壌に栄養を与え、いつの日かそこに花を咲かせるのかもしれません。そう考えると、その流木の生と死の境というものがぼんやりしてきて、あらゆるものが終わりのない旅を続けているような気がしてくるのです。

心にグッときます。

静かで、繊細で、儚い。しかし、奥底から感じる力強さ。生と死が目の前で流転する世界だからこそ際立つ、生命の煌めきと尊さ。

何故こんなにも感動を覚えるのだろう。筆者星野さんの文章には、言葉では言い尽くせない深さがあります。

自然も動物も、目の前の現実に対し、命をかけて生きていることをまざまざと感じます。そして、それらを感じ、言葉に綴っていた筆者も同様に。


経営というような、未来を描き、実現するという仕事に当たっていると、どうしても意識が未来に向きがちです。

未来を見据えるためにも、現実は捉えます。しかし、自分は、どこまで目の前の現実を向き合い、感じ取り、生きていただろうか。


「目の前の現実を生きる」。

これからも、未来のことは見据え続ける必要はある。けれども、現実の大切さ・尊さも忘れずに過ごしていきたい。


【本の抜粋】
人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右される一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。

人間の歴史は、ブレーキのないまま、ゴールの見えない霧の中を走り続けている、だが、もし人間がこれからも存在し続けてゆこうとするのなら、もう一度、そして命がけで、ぼくたちの神話をつくらなければならない時が来るのかもしれない。

多くの選択があったはずなのに、どうして自分は今ここにいるのか。なぜAではなく、Bの道を歩いているのか、わかりやすく説明しようとするほど、人はしばし考え込んでしまうのかもしれない。誰の人生にも岐路があるように、そのひとつひとつを遡ってゆくしか答えようがないからだろう。

太平洋の広さ、青さは、圧倒的だった。毎夜甲板に出て、降るような星を眺め、うねるような太平洋の音に耳を傾けた。何日も海だけを見ながら過ごしていると、自分が暮らしていた陸地は不安定なつかのまの住み処のようで、海こそが地球の実体のような気持ちにとらわれた。海は限りない想像力と、人間の一生の短さをそっと教えてくれた。

二十代のはじめ、親友の山での遭難を通して、人間の一生がいかに短いものなのか、そしてある日突然断ち切られるものなのかをぼくは感じとった。私たちは、カレンダーや時計の針で刻まれている時間に生きているのではなく、もっと漠然として、脆い、それぞれの生命の時間を生きていることを教えてくれた。

そんなおとぎ話のような出来事を聞きながらも、老人たちは別に驚いた様子もなく、柔和な表情をたたえながら窓から見える海を眺めている。過ぎ去った自分たちの時代を胸に秘め、万象の動きを見つめるような目で新しい時代に生きる子どもたちをも眺めている。そして子どもたちもまた、自信をもって生きているようで、何か大切なものを忘れてきたのではないかと、老人たちの時代をどこかでそっと振り返っている。が、時の流れの中で、人の暮らしもまた変わり続け、絶え間なく動く雲のように、私たちの姿も二度と同じ形に戻ることはない。どうかほろ苦く、暖かな気持ちにさせられたのは、人々の風景にそんな気配を感じたからだろうか。

ずっと昔、初めて行った北極海の海岸で、大きな流木の上に止まる一羽のツグミを写真に撮ろうとした日のことを覚えています。
(中略)その流木は風景の中のひとつがテリトリーの匂いを残すひとつのポイントになっていたのかもしれません。また流木はゆっくりと腐敗しながらまわりの土壌に栄養を与え、いつの日かそこに花を咲かせるのかもしれません。そう考えると、その流木の生と死の境というものがぼんやりしてきて、あらゆるものが終わりのない旅を続けているような気がしてくるのです。

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