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週末読書メモ110. 『戦略の世界史 戦争・政治・ビジネス』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

戦略研究の世界的権威による渾身の傑作。


古今東西の戦争、革命と政治、戦略家たちの挑戦。遠大な視野、瞠目すべき博覧強記

その触れる範囲は、サル(ホモ・サピエンス前)からはじまり、聖書、古代ギリシャや孫子、そして、ナポレオンやクラウゼウィッツ、さらにはマルクスら革命家やウェーバーら社会学者にまで。

戦略や経営だけなく、社会学や心理学、世界史に関心のある読者であれば、一読の価値があります。

空前のスケールで、この地球上の歴史における戦略を触れ、その本質を追求していく内容は、知的好奇心をくすぐられる一冊です。


戦略をもつことは、目先の瑣末事にこだわらずに長期的で本質的なことを見通し、症状ではなく原因に対処し、木よりも森を見る能力を意味する。

戦略をもつことは…木よりも森を見る能力、と。

戦略を語るには、他にも多くの言葉が必要(だから本書は1,000ページ近く笑)。しかし、一言で表すのであれば、この説明は確かに分かりやすい!


本書で浮かび上がるのは、流動的で柔軟性のある、終点ではなく始点に左右される戦略の構図である。

戦略の名著でもある『良い戦略、悪い戦略』にも「まず診断、次に基本方針、そして行動」が、良い戦略の核だと述べています。

”流動的”、”柔軟性”、そして、”始点に左右”、これらは全て戦略の特徴だろうなあ、と本書で取り上げられる数々の事例からも感じさせられます。


本書では、古今東西のケースを取り上げていきます。その上で、最後には、合理的選択理論の限界から、ナラティブ、ストーリーとスクリプトの有効性を問い、今日における戦略理論の妥当性を追究していました。

すぐれたプロットのプロットの特徴は劇と戦略で共通している。対立、説得力をもった人物設定と信憑性のある相互作用、運の影響力への配慮、そしてどんなプランでも前もって予測したり対応したりすることのができない要素すべて、である。

筆者は、劇と戦略が非常に共通していることを示した上で、戦略固有の特徴にも言及します。

戦略家は、脚本家とはまったく異なる課題に直面する。何よりも重要なのは、現実に降りかかってくるという点だ。

重要なのは、現実に降りかかってくるという!笑(そうなんだよな…)

自分が書くのが喜劇なのか悲劇なのか、最初からわかっているのが脚本家だ。そして喜劇を目指すものの、悲劇に終わる危険性をかかえているのが戦略家なのである。

そして喜劇を目指すものの、悲劇に終わる危険性をかかえているのが戦略家なのである、か。


一個人を超えた力により、運命が左右されるのも、歴史の真理。

筆者もそれを理解した上で、戦略が持つ可能性への期待が垣間見れます。この重厚で密度の濃い本書を礎にし、歴史のドラマを紡いでいって欲しい、というような…

戦略をめぐる「人間の智恵」が凝縮された一冊。

どんな立場の人であっても、戦略(つまり、木よりも森を見る能力)を大切さが胸に残る大作となっています。


【本の抜粋】
戦略をもつことは、目先の瑣末事にこだわらずに長期的で本質的なことを見通し、症状ではなく原因に対処し、木よりも森を見る能力を意味する。

偶発的な出来事や敵の取り組み、味方の失敗など、人間社会にまつわることには予測不能な要因がつきものであり、これが戦略に試練とドラマをもたらす。戦略は往々にして、望ましい最終状態を思い描くところから始まるとみなされるが、実際には、目標達成に向けて順序だった行動があらかじめ設定されることはまれである。むしろ、そのプロセスは状況が変化していくなかで展開される。
(中略)本書で浮かび上がるのは、流動的で柔軟性のある、終点ではなく始点に左右される戦略の構図である。

詭計や策略は小規模かつ誇示的な形で用いた場合に最も効果が高くなる傾向があった。
(中略)やがて戦争が複雑に組織化された大規模な軍隊同士で行われるようになると、策略という手段によって得られる効果には限界が生じた。そして武力のほうが重視されるようになったのだ。

本書で言葉とコミュニケーションの問題を繰り返し取り上げてきたのは、それらがなければ戦略は意味をなさないからである。他者が実践できるように言葉で示す必要があるから、というだけではない。他者の行動に影響を与えることによって機能する戦略には、常に説得という要素がつきまとう。

すぐれたプロットのプロットの特徴は劇と戦略で共通している。対立、説得力をもった人物設定と信憑性のある相互作用、運の影響力への配慮、そしてどんなプランでも前もって予測したり対応したりすることのができない要素すべて、である。

戦略家は、脚本家とはまったく異なる課題に直面する。何よりも重要なのは、現実に降りかかってくるという点だ。
(中略)脚本家はプロットを先に進めるため、主人公がしかるべきタイミングで難しい洗濯を迫られる展開にするために、偶然という道具を用いることができる。戦略家は、プロットには決して含まれていない出来事が存在し、プロットの論理を破綻させるとわかっているが、それがいつ、どこで、どのように生じるかは、はっきり把握できない。

古代ギリシャでは、喜劇か悲劇かという分類がプロットにおいて最も重要であった。
(中略)自分が書くのが喜劇なのか悲劇なのか、最初からわかっているのが脚本家だ。そして喜劇を目指すものの、悲劇に終わる危険性をかかえているのが戦略家なのである。

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