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「怪物」鏡面に晒す自分


監督: 是枝裕和
音楽: 坂本龍一
映画脚本: 坂元 裕二

受賞歴: カンヌ国際映画祭 脚本賞


叙分


こんにちは、choco...です。
遂に観てきました。
是枝監督の「怪物」。ずっと楽しみにしてきました。

寸分たりとも事前情報を入れたくなくて、劇場予告を見ざる・聞かざるで闘ってきました。


初見作品は、「誰も知らない」。
実際に起きた巣鴨のネグレクト事件を映画化しています。



バラエティイメージの強いYOUが、母親に成り切れないどうしようもない女を演じ、
当時まだ14才のあどけなさ残る柳楽優弥が長男役で出演しました。


どうしようもない現実と置き去りにされた4人の子供。
それがとんでもなくリアルで、初めて聞いた「育児放棄」という棘は今でも形を保っています。



とにかくもうね、
「海町diary」とか「万引き家族」とかもだけどキャスティングがうますぎんのよ。
そしてアンニュイな表現引き出す天才ですね。


だからなのか。すごく臭うんですよ。

え、腐ってんちゃうか?ってくらい人間の臭いがするんですよね。


冷蔵庫の隅に忘れられたなにかを確認する時の。
嗅いで「あーやばい」とか「まだ大丈夫」とか。

そんな説得力をスクリーンから漂わせて、心情を推し量らせようとしてくる。



今作の「怪物」もまさに人間をうまく切り取っていて、切り取られたものが周りにはどう映るのか?
ある種の観客を巻き込んだ答えのない実験のような作品でした。

あと坂本龍一さんのエンディングが素晴らしい。
もう聞けないなんて悲しい。


あらすじ


シングルマザーの早織は、息子の湊と大きな湖のある町に暮らしている。

湊は同級生の依里と仲が良く、子供たちは自然の中で穏やかな日常を過ごしていたが、ある日学校で喧嘩が起きる。

双方の言い分は食い違い、問題を解決する大人達や子供達のそれぞれの解釈が複雑に絡み合っていき、やがてメディアを巻きこむ騒動に発展していく。

果たして誰が正しいのか、誰が怪物なのか。


跋文


誰かにしか手に入らないものなんて、しょうもない。
誰にでも手に入るものを幸せっていうの。


自分と向き合えない湊に、校長が諭した際の言葉です。


幸せは限定も制限もされるべきものではないんですよね。

何となく使っている、「こうゆうもん」なんてものに縛られてはならないのだと思います。

私たちは知らず知らずのうちに限界や常識といった枠組みを認識してしまう。


人は生まれ落ちてからずっと評価の連続で、
自分や他者のそういった状況を目の当たりにする度に人間の天井を見つけてしまう。


そこに極力近づこう、逸脱しないようにと、ある種の生きるコツのようなものを探し続けているのだと思います。



作中で湊と依里がインディアンポーカーをして遊んでいるシーンも印象的でした。
相手の反応から自分のカードを予想する遊びです。


私たちは日々なにが正義かを模索し、
他人に映る自分を想像し続けている。

そして、返りのない状況に放り出されたとき、
人は自分の中に培った偏りの正義を振りかざしてしまうのです。


それが悪だという話ではなく、だから難しいよねって話。



これからも鬱然として鏡の前に立つ。
自分の形を他人で見て、「怪物」がいないか確認するのです。




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