【若干暑さを感じる春の天気の中、契約法務を振り返ってみる~後編】

先週は春らしい(というより初夏の陽気)の天気が続きました。10連休まであと1週間切り、平成もあと10日ほどとなりました。この週末は久しぶりに趣味の楽器練習(ドラム)と英会話三昧でしたが、いずれも楽しい。五感を動かすとハッピーになりますね。

さて、前回「契約法務を振り返ってみる~前半」で契約についてちょっと色々書いてみました。まずは取引・業界の理解が先であって法律はその後ということではありましたが今回はその続きを考えてみようと思います。なお、もちろん法律を軽んじていいというものではありません。同時並行、あるいは先行的に法律の確認を必要とする場面も多くありますし(独禁法等コンプライアンス関連は特に)、ご留意のほど。

3.契約を「書きすぎ」てはいけない

契約に関する知識があるがゆえに余計な権利と義務を勝手に書いてしまうことで、意図せずとも勝手に契約で現実のビジネスとかけ離れたものを作ってしまう可能性があります。新人や若手の担当者によくある話。
損害賠償責任を負う場合の規定として、前回の「瑕疵担保責任」や「製造物責任」の規定をよく見かけます。これらは民法や製造物責任法で定められたものですが、契約は法律に優先するので(原則。強制的に法律が優先する例外のケースはもちろんあり)、契約で別途これらの責任を法律とは違うものに修正することはあります。



また契約終了後の「供給責任」も取引基本契約書の中でよく見かけます。「ユーザーが取引終了後も要望があれば供給側はいつでも取引していた製品を供給する義務を負い、そのために在庫を抱えておく」、なんてことを平気で書いてしまうのは恐ろしいことです。
そもそも上記の行為ができるのは、買主側のバーゲニングパワーが強かったり、自社の系列会社であってコントロールが可能で生産計画にも組み入れられている等、前提として会社の経営的に必要、製造実務的に実現できる場合に限られると思います。また、売主側からすればそもそもアフターサービスを強化しているなど営業政策的な面から考えて、あえてこのような条文を受け入れるのかなと思います。

上記の条文をはじめ、そもそもビジネスサイドにいない法務や契約担当者が「有利になるから」「不利になるから」という法律的な感覚だけで、あれもこれもと独善的な権利義務を契約で作ってしまうことはままあります。思いつくがままに、あるいは考え過ぎたゆえにリスクを心配しすぎて色々書きすぎた結果社内で難色を示され、嫌がられる契約が出来上がってしまう悲しい結果に(となると法務が契約を作成するのは不適切?)。

4.取引上問題がなければ、契約書にしないことも


契約は合意だけでできます(債務の保証契約とか書面によらなくてはならない例外はありますが)。というよりどんな方でも大体は誰かと毎日「契約」をしてます。コンビニでの買い物は売買契約ですし、電車に乗ることは運送契約という請負契約を結んでいます。


普段のビジネスでも何ら問題なければ「契約書」を結ぶ必要がない場合も多いです。長年良好な関係が取引先と続いている中で、コンプライアンスという名のもと取引先から契約書の締結を切り出され、やはりキチンとした権利や義務を規定して行くべきだという頭に切り替わり交渉したところ、締結できなかった、なんてこともある話です。

ただ、この点はメーカーと法務系ブロガーの方が圧倒的に多いと思われるIT(特にweb系)、コンプライアンスの意識が元々高い金融関連の業界とは全く感覚が違うものだと思っております。各業界における契約書に対する考え方や嗜好については、また考えていきたいと思います。

5.【結論】契約法務は「想像」する必要はあるが、「創造」してはいけない


契約法務は取引の背景とリスクを「想像」する必要はあるが、法律のみのパターン化された分析をして契約を「創造」(作文)してはいけないと考えます。一方で契約は頭を使うものだし、「クリエイティブな仕事」と考える方もいるかもしれませんが、正直いかに契約の背景になる事実を徹底的に考え、分析し、かつシンプルに契約に落とし込むかが、重要です。
変に見慣れない条文や権利義務を織り込もうとして契約書がまとまらないなら、そのようなクリエイティブさなど無用の長物となるでしょうね。

まずは自分が使える法律知識、法的思考が味方に刃を向けるようにならないように。自分への自戒も込めて。

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