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【夢日記】フォーリンラブ

僕は大きな体育館に居た。高校のクラスメイト達がワイワイと活動しているが、どうやら学校の体育館ではなさそうだった。おそらく、学校行事かなにかで遠方まで出向いているのであろう。みんな楽しそうにしている一方で、僕は一人、体育館の隅っこでポツンと座っていた。ただ、所在無さげという感じはなかった。ひたすら人間観察に勤しんでいるようだった。

(「アイツはソイツと仲が良いんだろうな。クラスに居る時はよくわからなかったが、今だったら、表情と仕草を見れば一瞬で分かる。・・・あっ、今、アイツとコイツの絡みがあったけど、一見、フレンドリーに接しているように見えて、内心、アイツはコイツを煙たがっている感じがしたな。『いいからお前はソッチに行っとけよ』という空気感が隠し切れていなかった気がしたぞ。なるほど、同じコミュニティに属してはいるけれども、コミュニティ内の人間関係もまた、複雑に入り組んでいるわけか・・・。」)

僕はアゴを手でさすりながら思案顔を浮かべていた。現在の状況を一言でまとめると「クラスのみんなでワイワイ遊んでいる」になるかと思われるが、クラスという30〜40人の中規模なコミュニティの中で、3〜4人の小規模なコミュニティが点在している(こういう状態を「島宇宙化」と呼ぶらしい)。さらに、3〜4人の間でも、AさんとBさんの関係性、AさんとCさんの関係性、AさんとDさんの関係性・・・といった具合に、小規模コミュニティの中でも、意識的であれ無意識的であれ、一人一人、接し方は異なることが窺える。じっくりと観察すれば手に取るように読み取れる。それが僕にとっては何とも愉快に思われた。

「ねぇ、何してるの?」
「そんな怖い顔してさ(笑)」

突然、クラスメイトのKが僕に声を掛けて来た。僕は反射的に身構えるような姿勢になった。時間が経つのも忘れて人間観察に没頭していたため、自分の方へ近付いて来ているのに全く気付くことば出来なかった。こういう状態を「木を見て森を見ず」と言ったりするのかもしれない。

「いや・・・」
「別に・・・」

とてもじゃないが、Kに、

「何って、人間観察をしているんだよ。アイツとソイツとコイツは3人で戯れているように見えるが、アイツはコイツをあんまり良く思ってはいないみたいだぜ。仲が悪いとは言わない。けれども、アイツはコイツよりもソイツの方が好きなんだよ。つまり、アイツにとっては、コイツが居ればもう十分事足りるってこと。要するに『アイツが良い』と『コイツで良い』の違いみたいなもんさ。別のコミュニティの人間とつるむぐらいだったら、ソイツと一緒に居た方がアイツは楽しいんだろうけど、コイツが居るなら、わざわざソイツと必要以上に絡みたくはない。まあ、アイツの心理としては、大体そんな感じだろうよ」

とは言い出せなかった僕は、小難しい表情を浮かべながら、ぶっきらぼうに返事した。

ところが、

「一緒にコッチ来て!」
「輪に入れたげる(笑)」

言うが早いか、Kは僕の腕を掴んで、無理矢理、立ち上がらせた。Kからすると、僕の振る舞いが「みんなと一緒にワイワイしたいけど、自分の方から『俺も一緒に混ぜてくれよ!』と言い出す勇気が出ないので、隅っこにポツンと座っている」とでも思ったのかもしれない。だとしたら、とんだことをしてくれた。余計なお世話以外の何物でもない。それに「輪に入れたげる(笑)」の言い方も癪に障った。「○○してあげる」という恩着せがましい発言。いったい、僕がいつ、そんなことを頼んだというのか。姉御肌風な感じも、なんだか、いけ好かない。

「ああ・・・」
「まあ・・・」

僕は、呻き声のような、声にならない声を発しながら、Kに引きずられながら歩いていった。ハッキリ言って、Kの振る舞いは、僕にとっては要らぬお節介でしかなかったのだけれども、Kにとっては、僕が、所在無さげにしているように見えたから、良かれと思って声を掛けてくれたのだろう。それは確かだ。だとしたら、善意を無下にすることは出来ない。それに、言い方自体は「輪に入れたげる(笑)」という引っ掛かりを覚える表現ではあったけれども、K自身に「私は良いことをしてあげた!」みたいな空気感は一切漂っていない。その点に限っては、居心地の良さも感じられた。むしろ、言葉尻を捕らえてブツクサとボヤいている僕の方が、嫌らしいとさえ思えてきた。だから僕は、そのまま、Kの後ろを付いて歩くことに決めたのだった。

言い忘れていたが、Kは、同性のクラスメイトではなく、異性のクラスメイトである。つまり、女子、ということになる。ただし、「女の子」と呼ぶのが憚られるぐらいには、男勝りなところがある女子でもあった。男女ともに分け隔てなく仲良くすることが出来るタイプ。広く浅い人間関係を構築することが出来るタイプ。僕とはまるで正反対の人間だ。それもあって、一目見た時から、僕とは住む世界が違う人物だと思っていたので、これまで、全く眼中に入ってこなかった。当然、認識にも上がらなかった。恋愛対象はおろか、観察対象ですらなかったということだ。

にもかかわらず、この居心地の良さは、いったい何と形容すればいいのであろうか。僕自身、にわかには受け入れ難い感情が、体内を駆け巡っている。この気持ち、もしかして・・・。

(「恋・・・、なのかもしれない」)

Kは小走りでみんなが集う場所へと向かっていく。ポニーテールの髪がゆらゆらと揺れている。チラチラと見えるうなじにドキッとする。認めざるを得ない。僕はKにトキメキを覚えている。そう直感すると、普段の制服姿とは異なる私服姿まで、なんだか愛おしく思えてきた。このままずっと見つめていたい。この時間がずっと続いてほしい。いつまでもみんなが集う場所に着かなければいいのに。気が付けば、叶いもしないことを切に願っている自分が居た。

恋、してる。
今、キミに。

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