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「いい問い」があると生活も人生も楽しい! コルク佐渡島庸平さんと探る、歴史の学び方《前編》

未来は誰にも予測できない

これは、歴史を勉強すればするほどわかることです。

特に、いまはものすごい速さで変化する時代に突入しています。古代であれば500年スパンで変遷していた価値観が、いまは20年、30年で変わっています。

かつてないほどに不確定な時代を生きているんです。

そんな時代に大切なことは、自らの価値観を相対的かつ客観的に理解し、他者の考え方や価値観を受け入れること。そのうえで自らの価値観を選択し、決断することだと思います。

その手段として、歴史が役に立ちます。

自分の価値観や、自分の所属する社会を相対化して見つめるためには、かなり膨大な量の「別の価値観・別の社会」のケースを知る必要があるからです。

ただ、それを本で学ぼうとすると途方もない量になってしまいます。

もっと簡単にアクセスできるようにデータベース化しようと試みているのが、僕が代表をしているコテンのサービス。

約3500年分の歴史を整理・分析して「世界史のデータベース」を構築しています。これまでは歴史に詳しい人しかアクセスできなかった教養に、誰でも触れられる世界をつくろうとしています。

僕が実現しようとしているミッションについて「人類の知恵を伸ばしている」と、編集者でコルク代表の佐渡島庸平さんは言語化してくれました。

佐渡島さんのYouTubeチャンネルで対談させてもらったそのときの内容は、自分だけでは到達できない気づきをたくさんもらえました。

その対談の内容を、レポート記事にし前後編でまとめてみました。

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
編集者。コルク代表。2002年に講談社に入社。『モーニング』編集部にて『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』などを担当する。2012年に退社し、ネット時代に合わせた作家・作品・読者の新しいカタチをつくるべくクリエイターのエージェント会社・コルク創業。作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。契約しているのは、三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉、平野啓一郎、けんいち(元ロードオブメジャー)など。コミュニティ「コルクラボ」を主宰。
■「気づきをくれる」佐渡島庸平さんって? ↓↓↓
(▼)note 『コルク佐渡島の「好きのおすそわけ」』
(▼)YouTube 『編集者 佐渡島チャンネル【ドラゴン桜】』
(▼)Twitter 佐渡島庸平(コルク代表)

歴史の知識がなくても一発検索「coten」

佐渡島庸平さん(以下、敬称略):
深井さんがcotenで取り組んでいる「歴史の新しいデータベースをつくりたい」というビジョンが、とても独特で魅力的ですね。これについて教えてもらえますか。

深井龍之介(以下、深井):
世界史の記録はいま、3500年分くらいが書物として残されています。僕はそれを読むのが好きで、何十冊、何百冊と読みます。すると、これまで気づかなかった歴史のつながりや傾向が見えてきます。

この膨大な記録をもしもデータベースとしてまとめることができたら、何百冊と資料を読まなくても一発で検索できる。それってめっちゃいいじゃん!と思ったんです。

歴史上の人物で「大器晩成型の人間」だけ選んでみたり、さらに「学者のみ」あるいは「軍人のみ」に絞って検索してみる。すると「この時代のこの国に集中している!」などといった考察ができます。そういうことが簡単に調べられるようなデータベースを形にしたくて、AIなども取り入れてつくっているところです。

佐渡島: 
なるほど。深井さんは世界史の情報を使って、人々の感情や行動の傾向を分析しようとしているんですね。

僕は今回の新型コロナウィルスの影響で、人の感情や価値観までものすごく変わると思っています。だけど歴史について語るとき、たとえば戦争で大量の死者数が出たり、民衆の反乱が起きたりしたときに、その前後で人々の感情や行動がどう変化したかについてはこぼれ落ちて説明されがち。

深井さんのお話を伺っていると、むしろそういったことを説明していきたい気持ちがあるのかなと感じました。

深井:
そうですね。社会科学的なと言ったら大袈裟かもしれませんが、過去の歴史における事例を積み上げていって、そこから見えてくる傾向を探るのがすごく好きなんです。そういった観点で歴史のおもしろさを伝えていきたいですし、データベース上でもそこは出したいです。

マクロとミクロで全体感をとらえる

佐渡島:
深井さんが配信している番組『コテンラジオ』は、これまで順調に人気を得てきて、Japan Podcast Awardsでダブル受賞もされました。その秘訣というか、深井さんと世の中にいる歴史に詳しい人たちとは何が違うと思いますか。

深井:
僕は歴史に対して、大きく2つの見方を持っています。1つ目は、登場人物の感情まで探って共感していくミクロな見方。人物に共感するのはよくないと主張する人もいますが、僕はどっちかというとちゃんと共感していくタイプです。2つ目は、ローマ帝国と中国の古代帝国を比較して考えるみたいな、俯瞰した視点、マクロな見方です。

歴史が好きな人は、だいたいどちらかに偏っている場合が多いんですよ。戦国武将がめちゃくちゃ好きで武将についてはすごく詳しいけど、この武将と似たケースを古代ローマの時代から持ってこられるような人はものすごく少ない。

僕はどちらの見方も好きで、その中間にいます。戦国武将がめちゃくちゃ好きな人よりは武将について詳しくないけれど、古代ローマのことも勉強してるから戦国武将と古代ローマを比較したり重ねたり、合わせて話ができる、みたいな位置です。

佐渡島:
ミクロとマクロ両方の視点があるのが強みなんですね。その視点を持とうとしたときに、どういう資料に当たるんですか。僕の最近の例だと、新型コロナウィルスの収束後に流行るコンテンツについて調べようとしました。

中世ヨーロッパで猛威を振るったペストや、20世紀初頭に世界を襲ったスペイン風邪の後に流行ったコンテンツと関係があるんじゃないかと仮説を立てて。でも、関連する資料をうまく見つけることはできなかったんです。

深井:
その題材はすごく難しいと思います。僕の資料の見つけ方は単純で、まず知りたい時代の通史というか、概要が書かれているものを読みます。その中からより詳しく勉強すべきことに当たりをつけて、関連する本を買っていきます。

ペストの次、とかスペイン風邪の次、みたいな傾向を調べるとなると、当たらないといけない書籍のレベルがかなり特定のものに限られます。もしかしたら日本語訳では存在していないかもしれません。だから難しい。僕が読んでいるレベルはここまで詳しくなく、もっと色々なところをザーっと読んでいる感じです。

佐渡島:
全体感をとらえるのがうまいんですね。ミクロな見方で読む場合、歴史小説の中で書かれているような感情も信じたりしますか。

深井:
小説は、興味を持つきっかけとしてはありだと思います。ただ、実際の歴史を勉強するソースとしてはほとんど使いません。こういうことをした、してないといった、歴史的事実が忠実に書かれているものを読みます。

佐渡島:
史実に基づいた資料は、僕も編集で関わっている作品の参考文献として読みますが、どう考えてもつまらなくて。楽しんで読み進めるのは難しいですよね。でも深井さんはそういう資料をたくさん読んで詳しくなっていったのですか?

なぜ、20歳のアン・サリヴァンはできたのか

深井:
たくさんといっても学者に比べたら全然少ないです。1つのテーマにつき20冊から30冊くらいです。僕も8割方はおもしろいと思わないので、読んでてしんどいですよ。

けど、読み進めていくとすごくおもしろくなっていくタイミングがあるんです。それが10冊目くらいのとき! ギターやベースと同じで、弾き始めは全然おもしろくなくても、弾けるようになってきたらだんだん楽しくなる。それに似ていると思います。

佐渡島:
すごく気の長い、難解なサスペンスを解いているみたいですね! 推理小説は始めの4ページまでに読者の興味を引けるかどうかが重要だけど、深井さんは10冊読むと興味が湧くサスペンスを読んでるってことですね。

深井:
そうですね。例えば、この前はヘレン・ケラーとアン・サリヴァンの勉強をしました。サリヴァン先生はわずか20歳にして、見えず、聞こえず、話もできない三重苦の少女を教育します。

さらに、親にまで説教をします。ヘレンを甘やかしすぎだ、とか。こういった一連の記述に当たると疑問が湧いてきます。20歳のときの自分に、少なくともこの仕事はできない、と。よほど仕事に対する信念と覚悟がないとこんなヘビーな仕事はできない。なのに、「なぜ彼女にはできたんだろう? 」とこういう問いが生まれるんです。その問いを解くために、また別の本を読んでいきます。

佐渡島:
「問いの立て方」がとてもうまいです。

深井:
この問いが解けたときがめっちゃおもしろいんですよ、本当に。それで読んでるんでしょうね。

佐渡島:
なるほど。深井さんの魅力というか、『コテンラジオ』の魅力は「いい問い」から始まり、その問いを深井さんが探偵ばりに解いていくところがおもしろいんですね。

深井:
問いの立て方はすごくあると思います。

一番大きいテーマには「いい問い」が必要

佐渡島さん:
問いを立てられる人や、問いの立て方に関するメソッドはこれから需要が高まっていくと思っています。ただ現状はまだ解像度が全然上がっていません。深井さんは今後本を出版していくと思いますけど、そのときは歴史を語るのがうまい人じゃなくて、「問いを見つけるのがうまい人」という風にブランディングしていくといいんじゃないでしょうか。そうすると、歴史の本を何冊か出した後で「問いの立て方」についての本も出せると思いますよ。

深井:
それは全然思いつかなかった。へぇぇ。

佐渡島:
ストーリーの中にある一番大きいテーマを見つけるには、「いい問い」が欠かせないんですよ。

例えば、マンガでヘレン・ケラーとサリヴァン先生の関係を語ろうとするとします。サリヴァン先生が20歳でそれだけ教養と覚悟があるというのは、その作品の第1話の問いとして最高です。読者を惹きつけます。

『コテンラジオ』のおもしろさは、まず深井さんの問いの立て方がうまいこと。そして、その問いを深井さんが解いていった過程や感じたドキドキを追体験させてくれることにあるんでしょうね。

深井:
すごく的確に表現していただきましたね。自分で考えてても分からなかっただろうな。

佐渡島:
編集者というのは、こうやって著者の魅力を整理して、このテーマで本を書きましょうという風に戦略を立てていきます。それを1冊の本で集中してやるのが編集者の一般的な考えですが、僕は10年20年と本を出し続けていくなかで魅力を伝えていくほうがおもしろい。

全部の本でヒットを出そうとするよりも、ヒットを出すときもあれば学びに集中するときもある。このように組み合わせてやったほうが、作家にとってもいいと思います。

深井:
長期的な戦略を立てて、作家のポートフォリオを組んでいくんですね。

歴史上の人物も、家族や仕事仲間と同じ

佐渡島:
歴史に関しても、深井さんから出版の相談を受けて以来ずっと考えていました。出口治明さんなど歴史に詳しくてビジネスにも長けた方はすでに何人もいるし、『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリような哲学的な方向とも異なる。

今回歴史の学び方について話をうかがったことで、深井さんの魅力は「いい問いを立てられる」ところだとわかりました。情報を集めながらいい問いを持とうとするのは、もはや歴史だけじゃなくて人生や日常生活でも同じですね。いい問いがあると人生が楽しくなる。

深井:
本当にそうですよね。歴史って、なんだか古めかしくて勉強させられているように想像されがちですが、歴史上の人物も、自分たちの延長線上にいるひとりの人間です。

いま僕たちが生きているなかで一緒に暮らしている家族や、一緒に仕事する人たちと変わらないんですよ。生活していて人に出会うように歴史に出会っていけると、興味も湧きやすいしがんばる必要もなくなります。

いい問いを持ち、好奇心を持って歴史にぶつかっていってもらえたらうれしいですね。


(後編へつづく▶︎▶︎▶︎7月30日公開予定)

■2人のライブ感を味わえるのは動画!

〜歴史を楽しむには「問い」を持とう!〜 深井×佐渡島対談 


■佐渡島庸平さんの「アタマの中」全開放中

note 『コルク佐渡島の「好きのおすそわけ」』


「難解なサスペンスを解いていく」深井流歴史トーク

コテンラジオ_YouTube

<深井龍之介と『コテンラジオ』をもっと楽しめる↓↓↓>
▼コテンラジオ_Podcast
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深井龍之介個人のTwitterアカウント

このnoteでは、歴史を学ぶことで得られる「遠さと近さで見る視点」であれこれを語っていきます。3000年という長い時間軸で物事をとらえる視点は、猛スピードで変化している今の時代においてどんどん重要になってきます。

何千年も長い時間軸で歴史を学ぶと、自分も含めた「今とここ」を、相対化して理解できるようになります。世の中で起きている経済や社会ニュースとその流れ、ビジネスシーンでのコミュニケーションや組織づくり、日常で直面する悩みや課題まで、解決できると僕は信じています。

人間そのものを理解できたり、ストーリーとしての歴史のおもしろさを伝えたくて、歴史好きの男子3人で『COTEN RADIO(コテンラジオ)』も配信しています。PodcastYouTubeとあわせて聴いてもらえたらうれしいです。



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構成・コルンジックさやか、イラスト・いずいず、編集・平山ゆりの(すべて、コルクラボギルド)


株式会社COTEN 代表取締役。人文学・歴史が好き。複数社のベンチャー・スタートアップの経営補佐をしながら、3,500年分の世界史情報を好きな形で取り出せるデータベースを設計中。