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うつ病からの復職のタイミングとは~コンフォートゾーンから考える~

うつ病で退職し自宅療養している人との診察時の会話(実例を元に作成した架空の会話です)

患者 (以下『患』):最近は気分の落ち込みもなくなってきて、むしろ仕事できるんじゃないかと思うようになりました。
私 (以下『あ』):それはよかったですね。
患:自分ではできると思います。先日、友人にも『働いた方が早く治る』って言われました。
あ:仕事をすることで自分の役割を実感できることはメンタルのさらなる改善にもつながりますね。少しずつ復帰されてもいいかもしれませんね。
患:でも母は、まだまだゆっくり休んだ方がいいというんです。
あ:そうですか。
患:先生がもし『まだ働くの早い』とおっしゃるなら働くのはやめておこうと思うんです。
あ:うーーん、早くはないと思いますよ。
患:でも、先生、勝手に仕事を始めるのもダメだと思ったんで今日相談しました。先生が『まだ早い』っておっしゃるなら、仕事を探すのをやめておこうと思うんです。

 いかがでしょう。

 人間は、根本的に変化を回避するように出来ています。人間の心理的空間としてよく言われる表現で、コンフォートゾーン、ラーニングゾーン、デンジャーゾーンというのがあります。極めて日常的で慣れ親しんでおり変化がない。そこに居れば不安は起きない心理的空間がコンフォートゾーンです。ここで注意したいのが、そこは必ずしも真の意味で快適とは限らないということ。不平や不満は往々にしてあるのです。それでもそこから出る不安に比べたら、留まろうとするのです。

 人間が成長するためには次の空間であるラーニング・ゾーンに出ていく必要があるのですが、これがなかなかできないのが、人間。
 できる人と出来ない人で、社会的な成功や人間関係の構築に差が出てきます。

 うつ病の場合も同じことが言えるのです。この患者さんの場合は、復職できると言いながら実際には復職の意思がなさそうです。では、彼は怠けているのでしょうか?あながちそうとも言えないのです。一旦仕事を離れ数か月が経過してしまうと、『仕事をしていない自宅療養』がコンフォートゾーンになってしまう。そこから出ることに対し、ココロやカラダが強い抵抗を示してしまうのです。

 もはやうつの症状は改善し、元居た社会に戻っていくべき日は必ずやってきます。その時に慎重になりすぎてタイミングを逃すと、コンフォートゾーンの壁はさらに強く高くなり、出ていくことにさらなるエネルギーが必要になってしまいます。そうなると『自宅療養』は年単位にわたることになってしまいかねません。

 そうならないためにも、この心理を知っておくと、復職を考え出した時一歩踏み出す勇気につながり、スムーズな復帰ができるかもしれませんね。
 また、『うつ病は励ましてはいけない』というのがいつの頃からか定説のようになってしまいましたが、状況によりけりです。周囲の人も、少し背中を押してあげるタイミングかな?と思ったらそっと後押ししてあげましょう。

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