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観能日記

「羽衣」
うつりゆく世は絶えることを知らない。不確定が揺らめくことは美への憧憬だった。
その憧憬は誰も彼も知らない。故に、思い出すことや懐古することは不可能だった。まるで天女が落とした紫の衣が微笑するが如く靡いていた。
舞。人間が持つ美意識とは隔たりがあることを、シテがそれに込めていた。静かな激情を強靭な祈りに、安堵感を無限の渇望に。その憧憬は連続性の中で確立されず、滅びゆく宿命の中で地を這うように。滅びゆくものが永遠を、老いるものが若さを、成就しえぬ恋がその恋を。美しさをまだ知らず。

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