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「61回目にして、初の非対面での開催になりますが、ひとつよろしくお願い致します」。いつものように社長の挨拶で始まった当社の機関投資家向け決算説明会。2005年の上場来15年間、欠かさず毎四半期続けており、IR(投資家向け広報活動)チームと多くの経験値を積み上げてきた。
しかし、今回はいつもと違った。オンライン開催だったのだ。

本社会場にネット配信機材を持ち込み、200人近い機関投資家が自宅やオフィスからウェブ画面で中継を視聴した。私はシンガポールの自宅から参加した。

コロナ禍でやむを得ない選択だったが、結果は驚くべき内容だった。
毎回測定している「満足度指標」が、いつもの都内の会場開催時の満足度を上回ったのだ。

社長の表情が見えてよかった」という声が最も多かった。
私達IRチームは、はっとした。100人以上に出席していただく従来の会場では、社長の表情が見えるのは前の数列だけ。オンライン開催で社長のアップ映像が全員に等しく届いた。盲点だったが大事なことだったのだ。

移動時間がなく助かった」という声が次に続いた。機関投資家やアナリストにとって、上場企業の決算発表期は説明会が1日に何社も重なる。人によっては短時間で5、6社の説明会をはしごしなければならない。決算レポート作成に追われる彼らの移動時間の短縮に、一役買うことが出来た。

数十枚の資料も、今回はIRサイトに貼り付けた。決算説明会にはつきものである直前で発生する「資料修正」。200部近い印刷物を大騒ぎで差し替えることになるのだが、今回はパソコン上の修正で一瞬で終わってしまった。
印刷費も不要、スタッフが会場を走り回ることもなかった。

リアルタイムに質問をウェブ画面から受け付けることで、後半の質疑応答がいつにないペースで進んだ。社長が話している最中、IRチームが全力で回答に必要な数字や資料を準備できたからだ。このウェブ質疑応答タイムへの投資家・アナリストの満足度も高かった。

機関投資家と上場企業が対話する場、IR。密を避けた投資家説明会で、これまでにない密な対話を実現できた瞬間だった。


投資家との個別ミーティングもすべてオンラインで実施した。すると世界中の機関投資家が参加してくれた。例年5、6月は社長と私と数名で欧米を中心に世界の大手機関投資家の本社を訪ねIR活動をしているが、今年は行けるはずもない。「必ず来てください」と毎年の訪問を熱望する海外投資家たちが喜んでこのオンラインミーティングに参加してくれた。

関係者の移動時間とフライトの費用、修正が必要な大量の印刷物、そして排出される二酸化炭素(CO2)、すべて節約されたのだった。



[日経産業新聞 Smart Times「非対面IR 高まる満足度」2020年7月27日付]


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