見出し画像

DX時代の価格戦略とブランドマネジメント

様々な業界でデジタルを用いた企業変革が叫ばれている中、商品の価格戦略の作り方が変わってきています。特にそれが、今後の企業のブランドマネジメントに大きな影響を与えてきていると思ったので、少し考えをまとめてみました。

2つの代表的な価格戦略

かつて、商品の値付けにおいて代表的な戦略は、スキミング戦略とペネトレーション戦略の2つでした。

スキミング戦略とは、短期で開発コストを回収するために、市場の中でも特定の富裕層を狙いながら高い値付けをする戦略をさします。いわゆるプレステージ感が売りのラグジュアリーブランドに向いた考え方で、基本的には製造コストや競合価格よりも、カスタマーバリューにフォーカスをした価格戦略といえると思います。

ペネトレーション戦略とは、早期にマーケットシェアを獲得するために、あえて価格を抑えながら値付けをする戦略をさします。基本的には規模の経済が効く商材(生産量が増えれば単価コストも下がるもの)に向いた考え方で、シェアを確保してから別の商材で稼ぐことを狙った価格戦略といえると思います。プリンタ本体ではなくインクで稼ぐ、髭剃り本体ではなく替え刃で稼ぐ、ゲーム機本体ではなくゲームソフトで稼ぐ、といったものですね。(懐かしいですがソフトバンクが無料で配ったADSLもそうですね)

一般的に商品の値付けというと、「製造コストに◯%利益をのっける」と考えがちですが、非凡な経営者は製造コスト、競合価格、顧客期待価値から価格レンジを出した上で、上記のような戦略性を持って商品の値付けをするのです。

かの稲盛和夫氏はこう言いました「経営の死命を制するのは値決め」と。

リカーリング・シフトとブランドの関係

しかし、基本商品の売り切りが前提であった時代とは違い、昨今は「リカーリング・シフト」が起きていると言われています。つまり、「売り切り」モデルから「売った後に顧客から継続的に収益をあげる」モデルに、ビジネスが移行しつつあるというのです(ペネトレーション戦略も考え方は同じですが、インクも替え刃もPB商品が出ているので基本は売り切りモデルと考えられます)。

SaaS型ビジネスとも言われるこのビジネスモデルは、新しい価格戦略の形といえると思います。これまでは主にソフトウェア・サービスを提供しているIT企業が採用しているものですが、この考え方がモノづくり企業の価格戦略にも影響しているのが今という時代です。まさに製造業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の本命といえるでしょう。

スキミングは開発投資資金の回収期間、ペネトレーションはシェア率が代表的なKPIとして使われていましたが、このリカーリング・モデルにおいては顧客が生涯で落としてくれるお金=顧客生涯価値(LTV)がKPIとなり、より長期的な顧客との付き合いが前提としたオペレーション・フローが必要となります。

これは私の理解では、顧客接点を「点」ではなく「線」および「面」として捉えるということです。今までは保証期間内に壊れなければ良いものを最低限提供していればよかった企業も、日々顧客のフィードバックと向き合い続け、改善し続ける体制が必要になるわけです。そのためのコスト(開発・オペレーション費用)も含めた値付けをするというのは、簡単なことではありません。

また当然、点で顧客と付き合っていた時代は、その瞬間だけ良い顔をして接客していればよかった企業も、リカーリング・モデルでは24時間365日一貫した対応が求められます。これはある意味、結婚に似ているかもしれませんね。どんなに頑張っても素の自分を隠し切るのは困難(ほぼ不可能)。それまでの生き方が問われるのです。

ブランドマネジメントに再び脚光があたる?

ここで重要になるのが、ブランドマネジメントという概念です。

これまで企業が提供する世界観を体現するものは、その企業そのものであり、商品やサービス体験でした。しかしこれからはこれに加えて、サービスを提供する従業員にもその責務がダイレクトにのしかかってきます。

では従業員にその大役をこなしてもらうために何ができるか。

答えは一つではないと思いますが、例えばある企業は、価値観を共有できる従業員が自然と育っていく組織文化を作るために、人事の評価制度や様々なインナーコミュニケーションを組み合わせながら、意図的な経営施策を行っています。

企業としてのブランド法典(コード)を持つことは、その一つの解かもしれませんし、昨今流行りのパーパス経営も、こうした問題意識が根底にあるといえるかもしれません。

いずれにせよ、ブランドマネジメントの観点からすると、ブランドスイッチのタイミングだけ自社商品を選ばせるために悪質な手法(解約しづらい料金体系やサイト動線の作り)だったり、環境や社会に配慮をしない企業は廃れていく可能性が高いのではないでしょうか。もちろん誰もが本気で顧客生涯価値と向き合い始めたら、という前提つきではありますが。

今日は価格戦略から、ブランドについて考えてみました。ご参考までに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?