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祖父の自伝(14)〜祖父の思いが今繋ぐもの

私の祖父、
ぶどう狩りのマルタ園初代園主 
中根武雄が生前書き残した自伝です。

時代の転換期である今。
改めて読み、時代のルーツ
自分のルーツに思いをめぐらして
見たいと思います。

第三部 軍隊生活と青年学校


その八
〇〇〇〇と中島二等兵
(前編)


一難去って又一難

港から勤務も終わり帰って来ると早々に准尉より
「〇〇〇〇にA(仮名)と一緒であったがなにか覚えていないか」問われた。
「別に心当たりも有りませんが
なにかあったのですか」
と尋ねると
 Aが意識不明で急遽名古屋陸軍病院に入院した。

よく調べてみると手箱の中から
睡眠薬が出てきたという。
意識も戻り聞いてみると〇〇〇〇の時中根伍長の許しを得て睡眠薬を買った。頭が痛く飲んだと
説明したそうだ。」

さあ大変な事になった。
俺は全く知らない事だ。
例え話があったにせよ勤務中に許すはずがない。
と言っても本人が言う以上
どうしようもない。
 歩哨係上等兵も衛舎係上等兵も
俺の部屋に集まり心配そのもの。
俺は今帰ったばかりでしっくり
来ない。だんだんと気が落ち着くに
従って深刻になって来た。
なんと思っても場所が悪い。
〇〇〇〇だ大事件である。

営倉で済むことではない。
禁固格下は必然なことである。
歩哨係も衛舎係も前期の兵隊で
一週間後には除隊とわかっている。
泣くに泣けない。
部屋に閉じ籠り青ざめ当番の
運ぶ食事も喉を通らない。
生きた心地がしない程である。
俺はまだ帰れない。
どうせ屍をさらすなら満州の
独立守備隊に志願して帰らない
覚悟を決める。
伍長になってからふるさとに
帰ったこともある。
今になってから二等兵で除隊する事はどうしても出来ない。
誰もが人のせいだとは思ってくれるはずがない。
はやる心を自分に自分を言い聞かせ人事係准尉にその旨のうちを
あかす。

鈴木准尉曰く
「よしわかった。手続きは取ってやる。しかし大きな問題で上司は
中隊長から連隊長まで及ぶ
大事件で皆んながそれぞれの立場で心配している。もう少し待て」
と言われた。

おりもおり師団副官の耳にとまり
「表に出れば兵隊1人のことではない。重大な事件である。患者を病院から直ちに連隊に連れ戻せ」と
実直にして温情あふれる声がかかった。

出来事以来の数日が本当に長かった。例えようがない。
地獄で佛に会ったとでも言うか
言葉では言い表せない喜びは
隠しきれない心奥であった。

当のAは連隊の病室で
「俺はえらいもんだ。下士官を当番に見守られて寝ているとはなぁ」
と高響。
中隊長に問われると
「中隊長殿とハサミと野郎は
使いようで切れると言うことを
知っておられますか。わかれば
結構です。」
となれきった太々しい態度。

全く箸にも棒にもかからない
呆れきった野郎であった。
俺は准尉殿の思いやりがなかったら満州の裾野で凍え死んでいたかもしれない。

考え見れば同じ日に入営した同年兵だ。
指令や歩哨と階級は異なっていても心やすすぎての行動が大事件を生んだかもしれない。

男一匹捨て鉢になるとあれほど変わるものかなぁとびっくりさせられた。
以降〇〇〇〇だけはと准尉に
断った。

毎日が忙しくだんだんと忘れては来たが恐ろしくて思い出すと身震いがする。

※注 どうしても漢字がわからなく〇〇〇〇としました。衛成衛兵かな?もし分かった方が居ましたら教えてください。

この漢字がどうにもわかりません。



軍隊生活 その八後編へ続く

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