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祖父の自伝(12)〜祖父の思いが今繋ぐもの

私の祖父、
ぶどう狩りのマルタ園初代園主 
中根武雄が生前書き残した自伝です。

時代の転換期である今。
改めて読み、時代のルーツ
自分のルーツに思いをめぐらして
見たいと思います。

第二部 軍隊生活


その六
陸軍士官学校
全国参加隊に参加


昭和16年3月10日陸軍士官候補生の演習により全国砲兵隊が参加。
野砲兵第3連隊からも将校1、
下士官2、兵長1、兵13の計16名が
各中隊より選抜され混成で
参加する。
目的地富士裾野板妻営舎に出発する。

夕方営舎に到着。
早々名古屋の我々に指令1、喇叭手(らっぱしゅ)1が衛兵勤務に
割り当てされ俺に衛兵指令が命ぜられた。
予備知識も何にもない。
度肝を抜かれた感じである。
身の回りの整理も早々にして
喇叭手(らっぱしゅ)を引率し
衛兵所に向かう。
途中おふくろが教えてくれた昔話「牛と嫁は厩(うまや)に入れた時の大事だ」と言った事を思い出す。

全国からの寄り集まりである。
動揺せず柔らかくきちんとした態度で接する事だ。
北海道から歩哨3、九州より歩哨係上等兵1、歩哨3、京都衛兵係上等兵1歩哨3と全員集合
「ただいまより衛兵指令は、中根兵長がとる。全国それぞれ遠方よりご苦労であった。大変疲れていると思うが勤務に間違いのないよう努力してほしい」と挨拶する。

表門裏門弾薬庫と歩哨係の引率により配置につく。
やれやれと思った途端に日直将校、陸軍士官学校区隊長陸軍少佐の巡察である。
「敬礼 衛兵所その他異常なし」
と報告すると素早く

「ご苦労、指令、今からの勤務をどう考えるか」と質問。

「ハイ守則を(しゅそく)厳守それがためには暗記出来るまで仮眠を許可しない」と答える。

「うん、よろしい兵隊は疲れている。仮眠は取らせよ」
と温かい言葉であった。

佐官ともなるとさすが違うなぁと
思った。
異状もなく勤務も終わり朝8時
申し送り交代する。
翌日から演習である。

士官候補生は小隊長から分隊長
砲手から馭者(ぎょしゃ)と
一通り交替しながら教育を
受けている。
参加隊はその都度不足のところに
加わり同じように演習を
行うのだからなかなかきつかった。
しかし全国から軍人を志望し
集まった陸軍士官学校の候補生だ。
やっぱり違う。
号令態度動作など何かにつけて
いい勉強になった。
俺もここに来て良かったと
疲れを忘れる。

馬具一式揃え馬共に一棟を借用。
演習の期間中参加隊の管理保管で
ある。
馬の朝夕の手入れ飼付厩(かいつけうまや)当番など、なかなか多忙な日々であった。

時には参加者が少ない日もある。
その日は大砲の音を遠くに聞き、
ゆっくり羽根を伸ばし窓に見る
富士も格別一生の良い思い出
となった。
富士を背景に撮った写真が
今も当時を静かに呼んでいる。

長いと思った1ヶ月も間近となり
いよいよ借用物品返納の時が
来た。
日夕点呼の時
「返納品に間違いのないよう準備せよ。一才はお前たちに任せる」
と曹長が言った。

話に聞くとだいぶなくなっている
らしい。
曹長も知っての発言。
内田上等兵が「俺に任しておけ」と荒く言った。
いよいよ明日返納帰営である。

俺は又最後の衛兵勤務で喇叭手(らっぱしゅ)を引率勤務に着く。
今度は2回目だから最初ほどの緊張は無かった。
消灯前後に、三島の重砲隊で逃亡兵があったと日直将校により連絡があった。大騒ぎとなり夜遅くまで表門の出入りが続いた。

連隊は帰る汽車の中で、四方山話に
員数の不足を補うため内田上等兵の指揮に入り馬を他の厩に逃す。
厩当番が慌てて馬を掴みに行っている留守に、鞍置場に侵入し不足分を
つけ終わった頃
「申し訳ないことをした。うちの馬が逃げて」と謝りながら馬を連れに行ったと聞かしてくれた。
見つかったら半殺しにされてしまう。
良かったなぁと言った。

内田上等兵は一中隊で営舎下番で
一筋縄ではおえん兵隊だと聞き2度びっくり。
それにしても良く連隊のために
胸を張ってくれたと陰ながら喜んで帰る。

連隊長に帰営の申告をすると
士官学校より名古屋野砲第3連隊は成績優秀であったと連絡があり褒めて頂いた。
軍隊というところは要領かなぁと感心した。

間も無くして今度は中部軍砲兵実弾射撃大会が1週間の予定で滋賀県響庭野射撃場で行われる事になった。又第一分隊長として参加する。

汽車輸送で膳所下車。
行軍琵琶湖湖畔で露営。
夕方目的地到着。
翌朝陣地偵察。
各連隊に分かれ距離3000から5000メートル標的に向かって実弾を放ち競い合った。
演習中は余り詳しい記憶は無いが
覚えているのは夜ダニの夜襲である。全く閉口した。
こんな営舎ははじめてであり、
はじめての経験である。
ダニは書の明るい時は柱の割れ目
板の合わせ目などに隠れ暗くなると出てくる。襦袢(じゅばん)の襟元手首足首などに喰いつく。
充分血を吸うと小豆くらいの大きさになる。あとが痛がゆくなんともならん。今でも思ってもゾッとするぐらいだ。
あんに大群がいるとはあぁびっくりしたよ。

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