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私にとって、演劇が楽しかった頃。

※これは2020年12月12日にMediumに投稿されたものです。

これは、Mediumに投稿すべき文章ではないのかもしれない。

それでも、私は、この文章を書いてしまうことにした。深夜の少し重たく、冷たい空気に耐え切れなかったのだろうと思う。ほとんど衝動的に文章を書いている。この感覚は創作に活かすべきなのかもしれないが、これを作品にまで昇華することが出来ない気がする。だからこそ、私は、この文章を書いている。

私は、いまだ23歳である。世間の人間からすれば、情熱的で若々しく、初々しい時期なのだろうが、この歳であってすでに、若さに憧れていることは否定できない。それは、青春への諦念と言うべきか、盲目であることへの嫉妬なのか分からないが、若さとは斯くも瑞々しいものなのかと嘆息する。
私は、盲であった。それは身体的な盲ではなく、精神的な盲であった。私には、才能は無かった。だが、誰よりも演劇を楽しんでいる自覚はあった。演劇とはいまだに進化を続ける芸術であり、大衆を惹きつける力があると信じていた。

また、私自身、演劇をすることで救われた気持ちになった。日常生活で言いたいことの1割も言えない私にとって、演劇によってそれらを発散することは快感でもあった。観劇後の観客の顔を見て、彼らの心に少しでも作用することが出来たのかもしれないと思うと、自分の存在価値が認められたような気がした。私の作品を、覚えていてくれる人間がいるのかもしれないと思うと、私は生きていても良いのかもしれないと思えた。

だが、私はもっと根底にある感覚には気が付いていなかった。私は、ただ純粋に、表現することに快楽を抱いていたのだ。今となっては、それが自己満足に過ぎないと分かる。何か凄いものを見てしまったと言わんばかりの顔をして劇場を出て行く観客が居ると、私は表現して良かったと安心し、また、そんな表現を成した自分自身を誇らしくさえ思った。

だが、いつからか、快楽など感じなくなった。表現することに悦びなど感じなくなった。感じるのは、ただただ苦痛ばかりである。私は、高校生という、もっとも人生に影響を与えるだろう時を、全て演劇に捧げてしまった。人生の方向性を決定する時期である大学生という時さえも、私は演劇に捧げてしまった。その結果、今の私に残されたのは、ただ、演劇という媒体で表現するという能力だけだった。

私には、表現する以外の道がない。これは、能力的な問題ではなく、精神的な問題である。今という時を費やせば、他の道だって見つけられるはずだと、あなたは言うのかもしれない。そんなことは、百も承知である。だが、私の心と形容すべき精神は、もはや演劇以外のものを受け付けてはくれないのである。

私は、自らの精神に何かしらの欠陥を抱いているのではないかと不安になることがある。小学生の時分に、自らの脳の断面図を見た時、そこにポッカリと穴が開いていることを知った日から、その不安が消えない。医者は、「恐らく問題はないでしょう」と不安げな顔をして言った。「恐らく問題はない」という曖昧な言葉が、更に私を不安にさせた。

その頃から私は、他人に対して劣等感を抱くようになった。実際のところ、私は劣等であった。私は、他者が当たり前に出来ることを、当たり前に出来ない。私は、1つのことしか出来ない。その時期の自分にできる1つのことを応用して、何とか他のことも出来ているかのように振る舞っているだけである。

そして、私は約7年という時間を、演劇に費やしてしまった。今更、私が他のことを始めたとして、それは他者の時間の数倍の時間を有してしまうことだろう。もう手遅れなのである。

そして、今、私は若さに憧れている。殊に、演劇を純粋に楽しむ若さに憧れている。それは、もう私には抱けない感情だからだ。そして、その若さもいつか失われることも知っている。かつての私が、そうであったように、彼らは演劇を素晴らしいものだと思っているのだろう。だが、私は断言する。演劇とは薬物であると。傍から見れば、それは不可触の駄物であり、主観においても演劇は、文字通りの劇薬だ。それを喜んで受け入れる若さは、私にとって最早、憧れなのだ。

これは、公開すべき文章でないことを、私は理解している。それは、心苦しくも私を応援してくれる人々への裏切りとなりかねないからだ。しかし、願わくば、このような私であるからこそ表現しているものを応援して欲しい。その視点があれば、私の作品を見るにあたって、他者には見えない側面を見出すことが出来ると思う。

今日も、私は作品を創っている。誰かが目を向けてくれる限り、私は作品を創り続ける。もし、私の作品を誰も必要としなくなった時、私はこの世から逃げるのだろう。せめて、その日が遠い未来になるよう、私は精進を重ねるだけである。

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