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2月29日に生まれて

閏年、2月29日に産まれた。12歳の誕生日、「カネミツは閏年生まれだからまだ3歳だね!」なんて言われたものだ。4年に1度だけの特別な日。それだけで何だか自分が特別な存在なんじゃないかと思えた。しかし大人になった今となっては思う。自分は何も特別なんかじゃない、どこにでもいる平凡な人間なのだと。

小中高と、地元の公立の学校を中くらいの成績で卒業した。中学高校はバスケ部に打ち込んだが、県大会ではベスト8止まり。第1志望だった地元の県立大学は落ちて、地元の私大に行くことになった。国際学部というふんわりした学部の国際コミュニケーション学科というふんわりした学科で広く浅く色んなことを学び、バスケは辞めて入ったスキーサークルの活動とバイトに精を出し、それなりに恋愛もし、酒で失敗もした。いくつか資格を取って人並みに就活をして不動産屋に就職。職場に完全に満足しているわけではないが普通に働いて、7回目の閏年には結婚して子供も産まれ、今日は8回目の誕生日。2月29日に生まれたこと以外は実に平凡な人生だったと思う。

能力に目覚めたのは、皆よりも少しだけ遅い20歳の時だった。『炎を操る』という、どこにでもあるありふれた能力。徴兵の時に受けた検査の戦闘適性はCマイナス判定だった。目覚める能力は生まれた日の月の影響を受けやすいと聞く。満月や新月の日に生まれた人間は珍しい能力に目覚める割合が多いらしい。その理屈で言うなら2月29日なんて特別な日に生まれたなら特別な何かに目覚めても良さそうなものなのに、どうやらそうじゃなかったらしい。僕が『特別』であることを完全に諦めたのはあの時だったと思う。

『奴ら』との戦いに駆り出されたのは3度だけ。炎を操る能力を適度に使いつつ、何とか『奴ら』撃退することには成功した。3度の戦闘で撃退スコアは5。これも可もなく不可もなく、だ。戦場というのは誰もが特別になれるチャンスのある場所だ。僕はそこでも特別になることはなかった。2月29日に生まれたこと、どうやらそれが僕の持つ最初で最後の『特別』だったらしい。昔はそれがとても嫌だったけれど、今はそれも悪くないと思っている。平凡な人生。平凡な幸福。それでいいじゃないか。特別な日に生まれた男の平凡な人生を笑うやつがいるなら笑えばいい。僕は胸を張って平凡な人生を謳歌してやろう。そう思うのだ。

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