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竜の国から

ケライフィ王国は、竜の死骸から取れる資源とその加工品で発展してきた国である。先の聖魔大戦で、ケライフィ王国のある砂漠地帯一帯は、竜王スマウグ率いる竜の一族と聖王軍の最終決戦の戦場となった。戦いで命を落とした数多くの竜たちの死骸が残されたのだ。

魔力濃度の高い古龍種の死体は自然には分解されず、死んだあとも腐敗することがない。とは言え解体、加工をするには特殊な技術が必要である。元々竜の解体加工技術を持っていたケライフィ一族が、竜の死骸の周りに住み始めたのが王国の始まりだったと言われている。

竜の肉や血は様々な薬や魔術の触媒となり、鱗や骨や牙は加工すると魔族や神族をも傷付けることが出来る強力な武具になる。内臓から取れる希少な魔力物質は他に類を見ないほどの高濃度な魔力を持ち、莫大なエネルギーを生み出すことが出来る。それらの素材、そしてその加工品たちは、全て珍重され高値で取り引きされ、ケライフィ王国は莫大な財を成した。

王都ドラゴニアはそんな王国の栄華の象徴であった。王都ドラゴニア、またの名を竜葬都市スマウグヘイム。竜王スマウグの巨大な屍を中心に築かれた、竜王解体のための解体都市だった。頭の先から尻尾の先まで、全長は25000ダレンをゆうに超えるその体躯の周りに職人たちが住み始めて出来た街であった。解体が進むにつれ街は中央に向けて発展し、今はもう在りし日の竜王の面影はほぼない。唯一、スマウグの体内で生成された巨大な古龍の大宝玉を使った魔導炉が残るぐらいであった。無限とも言える魔力を放出し続けるスマウグの大宝玉。その魔力を使った魔導炉によって、ドラゴニアの街のインフラはほぼまかなわれている。

とは言え、竜の死体にも限りがある。竜王スマウグでさえほぼ解体され尽くした今、ケライフィ王国の竜資源は枯渇しかけていた。しかしそれを見越して先手を打っていたのが先代の国王だった。竜素材と加工品の輸出によって得た莫大な資金を惜しみなく投じ、王都ドラゴニアは観光都市への転身を計ったのだ。街の郊外には聖魔大戦をモチーフにした巨大な記念公園が作られ、まずはこれが観光の目玉となった。高価な竜素材も使って建築された巨大な高級ホテルが建ち並んだ街は、『竜の空中庭園』と呼ばれた。ホテルのそばにはスポーツスタジアムやカジノ、美術館や博物館が作られ、高級なブランドショップや宝石店が並ぶショッピングエリアは世界中の貴族たちの憧れの的となった。観光だけではなく教育にも力を入れ、世界中から第一人者たちを招いて大学も建築された。優秀な生徒は学費が免除になるだけでなく、大学に通っている間の生活費の補償とともに十分な報酬も支払われる。ケライフィ王国はたくさんの学者や大魔道士を輩出することとなった。国内だけでなく海外にも様々な投資が行われた。最も有名なのはスポーツへの投資だろう。低迷していた名門サッカーチームをドラゴンマネーで買収し、莫大な資金を投じてスター選手を揃えてリーグ優勝をもたらした。ケライフィ王国の竜をあしらったエンブレムの入ったユニフォームは世界中のサッカー少年たちの憧れの的となり、ユニフォームが飛ぶように売れた。それは投資した以上の莫大な利益をもたらした。

ケライフィ王国に、もはや竜資源はほとんど残っていない。しかしかつて竜資源が豊富に取れた時以上に、国民は皆裕福である。竜によって栄え、竜によって造られた竜の都ドラゴニア。皆さまもぜひ一度足をお運びください。

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