見出し画像

オンリー・ザ・ストロング

ある程度の映画好きならば、ジャンルごとに一番好きな映画があるものだ。今日は僕が一番好きなアクション映画の話を書こうと思う。

僕がその映画のことを知ったのは、格闘技雑誌のインタビュー記事だった。ブラジルの格闘技カポエィラ。日本にカポエィラをもたらしたと言っても過言ではない、日本人カポエリスタの方のインタビューであった。曰く、その映画を観て衝撃を受けた。どうしてもカポエィラを学びたくて、そのまま単身ブラジルに渡ってカポエィラを学んで帰ってきた……という記事だった。カポエィラ映画だって?そんなものがあるのか。1人の人間をそこまで動かす程の映画か、観てみたいな。それが、『オンリー・ザ・ストロング』だった。

しかしその日から、実際に僕が『オンリー・ザ・ストロング』を観るまでにはもう少し時間がかかった。当然劇場公開は終わっているし、VHSソフト化はされていたが絶版。レンタルビデオ屋さんにだってそんなマイナーな映画なんて置いてない。僕がようやく出会えたのは確か1999年、新宿のTSUTAYAだった。ビデオからDVDに移行する前。新宿のTSUTAYAには当時既に絶版になっていたようなビデオソフトがたくさん置いてあった。アクション映画コーナーの端っこにしれっと並んでいる『オンリー・ザ・ストロング』を見つけた時の歓喜は今でも覚えている。

数年越しに観ることが叶った『オンリー・ザ・ストロング』は、衝撃的な面白さだった。舞台はアメリカ。陸軍の特殊部隊にいた主人公は、ブラジルの内戦鎮圧に派遣され、現地のブラジル人からカポエィラを学んで帰国、かつて世話になった恩師に会うために母校を訪れるが、母校は荒廃して不良のたまり場となっていた。恩師に請われた主人公は、カポエィラを教えることによって不良たちを更生しようとするが、そこにギャングたちの魔の手が迫ってくるのであった……と、まあ大筋のストーリーはこんな感じである。当日感想を記したノートには、『天使にラブソングを2』と『酔拳』を足したような映画、と書き記してあった。何を言っているのかよく分かんねーだろうが本当にそんな映画なのだ。

しかしこれは格闘アクション映画だ。格闘アクション映画の醍醐味は細かいストーリーなんかじゃない。いかにかっこいいアクションシーンがたくさんあるか、その一点に尽きる。そういう意味ではアクション映画はアダルトビデオのようなものだと言っていいのかも知れない。どれだけエロい絡みがたくさんあって興奮出来るか。その点においてこの映画は最強だった。とにかくこれでもかと言うくらいにアクションシーンがある。とにかくぐるぐる回ってぐるぐる蹴る。ブラジル系移民であるギャングのボスが使ってくるのもまさかのカポエィラ。カポエィラとカポエィラがぶつかるバトルシーン。2人でぐるんぐるん回ってぶんぶん跳ぶ。控えめに言って最高である。学校でクラスメイトだった教師との恋愛要素もあるのだが、詳しくはネタバレになるので言えないがラブシーンにまでまさかのカポエィラ要素が入っている。完全にどうかしている。ギャングたちを倒して学生たちが卒業するラストシーン。主人公にカポエィラを教えてくれた本場ブラジルのカポエリスタたちが式に招かれ、カポエィラの演武を見せてくれて映画は終わる。最初から最後まで徹頭徹尾カポエィラづくしなのだ。これはブラジルまで飛んで行きたくなる気持ちも分かる。

主演のマーク・ダカスコスは、『ブラック・ダイヤモンド』では敵役としてジェット・リーとも互角のアクションを見せた名アクション俳優であるが、なかなか良作に恵まれていない印象がある。『オンリー・ザ・ストロング』は彼のアクションを思う存分堪能出来る代表作だ。とは言え未だにVHSも絶版になったままDVD化もされておらず、各種配信サービスでの配信もない。僕だってあの時新宿のTSUTAYAで出会っていなければ未見のままだったろう。レンタルビデオ店なんて文化も過去の遺物になりかけているけれど、こういう作品との出会いもある場所だったよねと、郷愁めいた思いもありますね。今ではその役割も各種配信サービスが担っているんでしょうけど。「おお!あの映画が配信に追加されてる!?」みたいなね。

よろしければサポートいただけると、とてもとても励みになります。よろしくお願いします。