見出し画像

山間にて

そろそろ昼食にしようと、手頃な岩を見つけて腰を下ろした。この分なら暗くなる前には街に着けそうだ。幸い今日は天気もいいし、魔物も大人しくしてくれているようだ。このまま無事に着けるといいが、それにはまず腹拵えだ。荷物を足元に置くと、テキパキと食事の準備をした。

とは言え旅の食事だ。大したものではない。パンとチーズ、塩漬けの干し肉。途中の峠で雨に当たって2日も足止めを食らった時には、食糧が持つかどうかと心配したものだが、何とか間に合いそうでよかった。しょっぱい干し肉を齧ってパンにかぶりつく。旨い。ワインで胃に流し込むと、疲れた脚に元気が戻ってくるような気がした。パンをちぎってチーズを乗せて頬張る。これがまた旨い。もぐもぐと咀嚼しながら眼下の景色を眺める。岩肌の険しい山道の向こう、小さな森の更に向こうに街が見える。ふわりと涼やかな風が頬に当たる。鼻に抜けるチーズの匂い。昨日魔物にやられた肩の傷の痛み。なんと言えばいいのか。俺は、「生きてる」と叫びたいような気持ちだった。

古代遺跡から掠めてきた宝石がかなりある。街で売ればそこそこまとまった金になるだろう。何かうまいものを食ってうまい酒を飲んで女を抱いて、少しの間街でのんびり過ごしてもいい。旅から旅の生活にも少し倦んできたところだ。最後のパンを飲み込んで空を仰ぐ。空をくるくると飛ぶ鳥が見える。もう少しだけ脚を休めたら出発しよう。そういえば柔らかいベッドで眠れるのも久しぶりだ。靴紐をきちんと結び直して荷物を背負って剣を持って、俺は立ち上がった。

よろしければサポートいただけると、とてもとても励みになります。よろしくお願いします。