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好きが欲しかった夜

モトキを振った日、駅前で別れ際にくるりとこっちを振り返ったモトキは、「それでも俺はお前のことがずっと好きだから」と言った。自分から振っておいてこんなことを言うのも酷いのかもしれないけれど、それはとてもドラマチックでロマンチックな瞬間だった。もう3年も前、GW明けのことだ。

あれから色々あった。仕事は責任が増えて忙しくなって、ストレスで体調を崩し、やっとこさ元気になったと思ったら新しく出来た恋人に振られたのがつい先週。踏んだり蹴ったり。泣きっ面に蜂。そんな時にふと思い出したのがあの時のモトキだった。あんなことを言っていたけれど、まだ私のことをずっと好きでいるのだろうか。私は弱っていた。弱っていた私は、「誰がが私のことを好きでいてくれる」が欲しかったのだと思う。私は別れて以来3年ぶりにモトキに電話をした。

「どしたー?」と言うモトキの声は、あの頃と全然変わってなくて笑ってしまった。勢いで電話してしまったけれど、何を話すかは何も考えてなかった。「えっと、あの、元気にしてるかなと思って」としどろもどろに返す。久しぶりに聞くモトキの声に私は少し舞い上がっていたのだと思う。突拍子もなく私は、「私のことまだ好きー?」と口走ってしまった。何を言っているんだ。完全にヤバいやつじゃないか。内心あたふたする私を知ってか知らずか、モトキはあっけらかんと言った。「まだ好きだよー。ずっと好きだって言ったじゃん。電話してくれて嬉しいよ」と。私は背中がすっと軽くなる気がした。

そこから2時間くらい電話をして、最近のあれこれを聞いてもらった。仕事がしんどいこと、恋人と別れたこと、新しいソファーを買って古いソファーを捨てたこと。モトキはうんうんそれでそれで、そうなんだと話を聞いてくれた。スマホ越しの声だけだったけれど、この人は本当に私のことを好きでいてくれてるんだなと感じることが出来た。2時間たっぷり話をして、ごめん明日も仕事だからと電話を切る。自分から電話したのに酷いもんだ。通話を終えてベッドに仰向けに転がる。嘘のように満たされた、穏やかに幸福な気持ちになっていた。

私には、私のことをずっと好きでいてくれる人がいる。そのことは私に大きな安らぎを与えてくれた。だからと言ってモトキと寄りを戻すかと言うと、たぶんそういうことではないんだと思う。私もこの感情が何なのか、私たちの間にある関係性が何なのかはうまく説明出来ない。雑に最初に浮かんだ言葉で表現してしまうならば、それは『愛』なのかもしれない。何だか背筋がムズムズするけれど、モトキの愛に私は救われた。そんな夜だった。明日も仕事だ頑張ろう。

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