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フル・ヌード

おばあちゃんの遺品を整理していると、引き出しの奥から『N』と書かれたディスクが出てきた。何だろうと思ってパソコンで読み込んで見てみると、そこにあったのは綺麗な女性のヌード写真のデータだった。

「おばあちゃんね、やっぱり綺麗だわ…」と、一緒にパソコンを見ていた母が言った。おばあちゃんは若い頃舞台女優をやっていて、この写真はおそらくその頃に撮ったものだろうと言う。全然知らなかった。私が物心ついた頃にはおばあちゃんは専業主婦…というか専業おばあちゃんでずっと家にいたし、そんな話をしてくれたこともなかった。でも画面の中のおばあちゃんは女優だと言うのも納得するぐらいとてもスタイルが良くてとても綺麗で、何よりも活き活きとした表情がとても印象的だった。きっと素敵な女優で、きっと魅力的な女性だったんだろうと思う。私がよく知るチャーミングなおばあちゃんがそうだったように。

そこにおじいちゃんが入ってきた。お葬式やら何やらのドタバタでまだ少し疲れた表情だったが、私たちがパソコンの画面を見ているのを見つけると、「まだそんなデータが残っていたのか…」と目を細めた。「懐かしいなぁ…この写真はね、おじいちゃんが撮ったんだよ」おじいちゃんは言った。私は驚いた。おじいちゃんは学生の頃演劇サークルにいて、おばあちゃんはそのサークルの先輩だったらしい。就職して趣味で写真をやっていた頃に撮って欲しいと言われて撮ったのがこの写真なのだそうだ。「ポートレイトはたくさん撮っていたけど、ヌードを撮るのはおばあちゃんが初めてでね…とても緊張したもんだよ」そう言っておじいちゃんは懐かしそうに笑った。それをきっかけに何やかんやあって付き合うことになって結婚したらしい。その何やかんやの所が聞きたいんだけど?と私が突っつくと、おじいちゃんは照れくさそうに「まあそのうちな…」と言った。おじいちゃんはおばあちゃんのことがとても好きだったんだなぁと私は思った。

私も来年30になる。私もおばあちゃんのように、若いうちに自分のヌード写真を残しておくのもいいかもしれない。おじいちゃん撮ってくれない?と冗談めかして頼んでみたら、「わしはもう目が悪いから…」とか何とか言って断られてしまった。とても残念だ。

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