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僕の恋愛史

僕が初めて人を好きになったのは小学校3年の頃、クラスのマドンナ的な存在だったAちゃんだった。悪友にそそのかされて放課後の教室で「好きです」と告白して、「ありがとう。でもごめんなさい」とやんわりフラれた。

次は中学1年の時、同じクラスで部活も同じだったBさんを好きになった。家が同じ方向だったBさんとは毎日途中まで一緒に帰っていた。11月に告白してめでたく付き合うことになって、でも「やっぱりそういう風には見れない。ごめんなさい」とクリスマス前にフラれてしまった。付き合ったっぽいことと言えば3回手を繋いだくらいだが、一応初めての彼女はBさんだということになる。

高校1年の時に隣の席だったCさんは告白する前に陸上部の彼氏がいることを知った。高2の時に好きになった後輩のDちゃんは告白する前に遊びに誘って断られてそれっきり。高3で付き合った後輩のEとは初めてキスもしたが、受験勉強で忙しくなってフェイドアウトしてしまった。

AちゃんもBさんもCさんもDちゃんもEも、嫌いになったわけじゃない。付き合うことは出来なかったり、付き合ってもうまくいかなかったりはしたが、それでも一度好きになった人だ。嫌いになるような何かがない限りはずっと好きに決まっている。そうやってずっと好きな人が増えていくにつれて、僕は次の恋に踏み出すのが難しくなっていった。

大学の時に好きになったF先輩。僕の方から告白して付き合うことにはなったが、AちゃんやBさんやCさんやDちゃんやEのことも好きなままF先輩と付き合うことに僕は後ろめたさのような感情を持ってしまった。そんな気持ちを悟られたのか、F先輩とも結局半年で別れてしまう。サークルの後輩のG、バイト先の同期のH、飲み会で仲良くなったI、会社の同僚のJ、マッチングアプリで知り合ったK、好きな人ばかりが増えていく。初恋のAちゃんのことさえまだ好きで忘れられずにいるというのに!自分の気持ちに素直で誠実でいようとすればするほど、目の前の好きな人に対して誠実でいられなくなる。それなのに誰かを好きになることは止められない。それがつらかった。

「あれ?リュウジくんじゃない?」正月に実家に帰省した時、コンビニで声を掛けられたのはAちゃんだった。20年振りに会うAちゃんはすっかり別人のように大人の女性になっていて、それでも変わらず魅力的だった。コンビニの前で少し立ち話をする。Aちゃんは大学を出てすぐ結婚して、でもうまくいかずに離婚したばかりなのだと言う。「そういえばリュウジくん、私に告白してくれたことがあったよね」そう言ってAちゃんは笑った。それはあの頃と何も変わらない、僕の初恋のAちゃんの笑顔だった。昨年僕は、会社の同僚だったJと3年の交際を経て結婚した。しかしずっと好きだったAちゃんのことを、好きだと思う気持ちに嘘は付けなかった。「そんなこともあったね。懐かしいね、もう20年も前だよ」そう言いながら僕は、後ろで組んだ左手の指輪をそっと外した。

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