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嘘を教える

小学校の授業で、「嘘をつく」ことについて話して欲しいという依頼を受けた。確かに私はお笑い芸人であり、舞台俳優であり、物語の作家である。私が話したり書いたりしていることのほとんどは嘘だ。嘘をつくことを生業としていると言ってもいい。しかし授業でそんなことを教える意味があるのか?私は素直にその疑問を担当者にぶつけた。

曰く、今の子どもたちは嘘をつくことを過剰に悪いことだと思っていたり、例えばテレビや漫画や創作物で描かれる嘘と現実の境界認識が上手く出来なかったり、逆に嘘ばかり言う子も多かったり、嘘との付き合い方、折り合いの付け方が下手な子が多いのだと言う。嘘とは何なのか、どうして人は嘘をつくのか、いい嘘と悪い嘘、そういうことをきちんと学ぶ機会を作りたい。担当者は熱心にそう言ってくれた。私は授業を引き受けることにした。

相手は小学3年生だった。まずはひとつ漫談を披露する。鉄板ネタを小学生向けに少しアレンジして、道でうんこを踏んだことがきっかけで、最終的におばあさんの命を助けて感謝されることになるというネタだ。授業でお笑い芸人さんがネタをやるというシチュエーションも相まって、ネタは大いにウケた。さて今の話、どこからが嘘だったと思う?いくつ嘘があったと思う?と皆に質問するところから授業を始めた。ひとつひとつの嘘を解説する。根も葉もない嘘、実際にあったことを誇張した嘘、分かりやすい嘘、ちょっと本当っぽい嘘。嘘にもいろいろあるよねと説明すると、みんなうんうんと興味深く聞いてくれていた。

事前に宿題で、今までついたことのある嘘についての作文を書いてきてもらっていた。いくつか発表してもらう。借りた漫画をなくしたのに盗まれたと嘘をついたこと、お父さんは芸能事務所に勤めていると嘘をついたこと、学校帰りにUFOを見たという嘘。テレビでやっていたことを信じていたら、お父さんがこれは嘘なんだよと教えてくれたという話もあった。全てとても興味深い内容だった。どうしてそんな嘘をついたのかな?と問いかけてみる。怒られるのが嫌だった、嫌われたくなかった、父親の仕事が恥ずかしかった、そっちの方が面白いと思ったから。みんなきちんと自分の意見が発表出来てすごいと思った。

嘘はよくないことです……という安易なまとめに結論付けない授業にしていいかというのが、事前に話して認めてもらった条件だった。みんなに授業の感想を聞いた。「嘘は悪いことだと思っていたけど、相手を傷つけないための嘘、相手を楽しませるための嘘もある。そんな嘘は笑って許してあげられるといいなと思いました」そんな感想もあった。私は嬉しかった。よくない嘘をつかないようにするためには、よくない嘘に騙されないようになるためには、いい嘘を理解することが必要なのだ。授業は大成功に終わり、後日担任の先生からも丁寧なお礼のメールをもらった。

もちろんこの話も最初から最後まで全て嘘である。この嘘はいい嘘でしょうか?それともよくない嘘でしょうか?いい嘘とよくない嘘との差は?我々もまだまだ嘘について学ぶ必要がありそうですね。

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