勇者の照明家
長い冒険の果てに、勇者アレルはとうとう魔王を討ち果たした。そんな勇者のパーティーの中で、モミタは主に照明を担当していた。
勇者たちは、様々なダンジョンで様々なモンスターたちと戦ってきた。洞窟、地下迷宮、石造りの塔、そして魔王の城…。ほとんどのダンジョンは暗く、足場が不安定で、そのままモンスターと戦うには余りにも危険な場所ばかりだった。そこで闇を照らしてきたのがモミタであった。
モミタは一応魔法使いである。しかし使える魔法はほぼ『ライティング』だけだった。魔力で作った光の玉を生み出して周囲を照らす…魔法使いならば誰もが使える基礎魔法のうちの一つである。しかし、様々な状況に応じて適切に光を操るとなると、なかなか一朝一夕に出来る事ではない。モミタは光のスペシャリストだった。同時に複数の光の玉を生み出し、それぞれの光量を調整し、仲間とモンスターの位置関係を考慮しつつ、眩しすぎないように、しかし戦うのに適切な明るさになるように完璧な光で照らす。モミタ自身が直接敵と戦うことはほとんどなかったが、モミタがいるからこそ勇者たちはモンスターと戦うことが出来たのだ。
モミタの活躍のハイライトは、やはり魔王との最終決戦だろう。魔王城の最深部、魔王モーザが待ち構えていた大広間は、モーザのまとう闇の衣が全ての光を飲み込んでしまう完全な暗闇だった。モミタの『ライティング』も、モーザの闇の衣にどんどん吸い込まれてしまう。勇者たちは苦戦を強いられた。しかしモミタは魔王の闇の衣に僅かなほころびを見つけると、そこに光を集中させた。勇者アレルの聖なる力が、空気を切り裂く戦士の剣が、魔法使いの炎が、僧侶の風の刃が、闇の衣のほころびを照らすモミタのスポットライトに重なり、恐るべきモーザの闇の衣を打ち破る。その瞬間、魔王の大広間はモミタが全力で生み出した光に満たされたのだ!魔王との死闘はその瞬間に決まったと言っても過言ではなかっただろう。
光ある所に闇もまたある。暗闇を明るく照らすという行為はそのまま、闇の存在を払い、人々の暗い気持ちを明るくするということなのかもしれない。魔王を討ち帰還したアレルたちの物語は、伝説として長く語り継がれることとなった。しかしモミタ自身の強い希望により、アレルの冒険を記した全ての文献からモミタの存在は削除された。自分はただ光を照らしていただけで、実際に戦っていたわけではないというのが理由だった。いつしかアレルたち一行は、『光の戦士たち』と称されるようになった。その『光の戦士』たちの一行の中に照明家がいたことは、もはや誰も知らない。だが彼らを『光の戦士』たらしめていたのは、他ならぬモミタの照明なのである。