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夜を歩く

昨夜はなかなか寝付けず、ベッドでゴロゴロしているうちに何だか変なテンションになって、そのまま少し近所を散歩するなどしてきた。

外に出てみると空には大きな満月。そうか、ソワソワ眠れなかったのは満月のせいかと妙に納得する。正確には満月は日曜日だから今日の月はまだ満月じゃないみたいだけど、満月2日前はもう満月だ。月を見上げながら歩く夏の夜。悪くない。清少納言も、「夏は夜。満月の夜はマジサイコー」って言っていた(言ってない)。昼間はクソ暑かったけどこの時間になると外を出歩いてもそんなに暑くない。ふらふらとあてもなく夜の住宅街を歩いた。

と言ってもまだ22時前だった。まだまだ街は眠っていない。外で煙草を吸う人を2人ばかり見かける。そうか、自分の部屋でも煙草を吸うのは憚られる時代か。難儀なものだ。煙草くらい自由に部屋で吸えばいいのに。部屋にいる彼女に怒られるのかなとか、壁紙やエアコンが汚れるのを嫌がっているのかなとかあれこれ邪推する。ガラガラと窓が開く音がしたかと思うとベランダの洗濯物を取り込んでいる人が見えた。仕事から帰ってきて洗濯して干したのかもしれない。うん、この季節ならもう乾いていても不思議じゃない。また別のどこかの窓から漏れ聞こえるテレビの音、何かの音楽。東京の住宅街。こんなにも人が住んでいたっけと感心する。

見つけた自販機に2枚だけ持って出てきた100円玉を入れてレモンスカッシュを買う。プシュと空けてごくごくと飲む。火照った体に炭酸が染み渡る。ふうとひと息ついて散歩の再開だ。公園を抜けて川沿いの道を歩く。でかいヘッドホンをつけたお兄さんとすれ違う。ちょっとコンビニまで買い物とかだろうか。そんなヘッドホンよりもこの蝉の声の方が風情があるんじゃない?とお節介な気持ちになる。ピタリと門扉が閉ざされた小学校の校門。ここはいつだったかの選挙の時に投票会場だったところだな。こないだの都知事選は期日前投票だったから、あれはいつだったかなとぼんやり考える。ウーバーの自転車が走り去っていく。こんな時間までお疲れ様です。どっちに行こうかなと見回してまた知らない路地に入って行く。こういうのも成人男性ならではの夜の楽しみ方だよなぁとひとりごつ。女性がこんなことをしていたら、変なやつと出くわしたら危ないもんなぁ。恵まれた自分の性に申し訳ない気持ちになってまたレモンスカッシュを呷る。ギュッと建った小洒落た一軒家の軒先、小さな自転車が4つも並んでいる。子供が4人もいるのかなぁ。そう思って見ると隣の家にも大小様々な自転車が5つ。こっちは2つに車が2台。そうか、こうして家族がここで暮らしているのだなぁと思う。そうかと思えばドアノブに壊れたコンビニ傘が引っかかったアパートもある。家の数だけ人がいて、人の数だけ人生はあるのだ。こういう近所に住んでいる女の子と懇ろな関係になれたらいいのになと下世話な妄想をする。見上げた月がいい感じに見えていたのでスマホを取り出して写真を撮る。お、思ったより明るくいい感じに撮れたぞとSNSに上げる。こういう写真は多分10いいねくらい付くのだ。

ふらふらと30分くらい近所をぐるっと散歩して、散歩しながらあれやこれやと妄想をして部屋に帰ってきた。うーんと身体を伸ばしてベッドに横になる。身体を動かして火照ってしまったのか、月の光を浴びて脳が活性化したのか、そこからもなかなか寝付けずにあっちにゴロゴロこっちにゴロゴロして変な寝付き方で眠った。そんな何でもない夏の夜の一コマでした。

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