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すべすべの石

引っ越し前に片付けをしていたら、収納の奥にあった段ボール箱のそのまた奥に、昔好きだったアニメのフィギュアやおもちゃやガチャガチャで当てたガラクタ達に混ざって、丸くてすべすべの石があるのを見つけた。

確か学生の頃、部活のメンバーだか誰かとワイワイ出かけたどこかで見つけて拾ってきた石だったはずだ。楽しかった今日の日を決して忘れまいと、記念に持って帰った石。しかし僕はもうこれが誰と行ったどこで拾ってきたものなのかすら忘れて思い出せなくなっていた。その辺に落ちていた石を持って帰りたいと思うくらい楽しかったはずなのに。僕はとても寂しい気持ちになった。

この石は捨てるべきだろうかと自問する。もはやどこの思い出なのかすら思い出せないただの石。こんなものを持っていても仕方ない。それでも捨てるのは少し気が引けた。手に取ってそっと撫でてみる。見た目以上に滑らかな手触りと、ひんやりした石の質感が手に心地よかった。だけどそれか何だと言うのだ。僕は窓を開けると、思い切ってそのすべすべの石をポーンと外に投げ捨てた。小さな石は夜の闇に紛れてすぐに見えなくなって、駐車場のアスファルトに当たった乾いた音だけが微かに耳に届いた。

1ヶ月後、品川に現れた怪獣のニュースをテレビで見た時、僕は何故かひと目で、この怪獣はあの時僕が窓から投げ捨てたすべすべの石だとすぐに分かった。僕に捨てられた恨みが、僕に忘れられた怨念があの石を怪獣に変えてしまったのだ。あぁ、どうして僕はあんなことをしてしまったんだ!ウルトラマンに殴られ、蹴られ、投げ飛ばされ、最後は必殺光線を食らって爆発したすべすべの石怪獣。僕はただニュース映像の画面越しにただ見ていることしか出来なかった。

怪獣はすべすべした石の皮膚をしていたことから、イシラと名付けられたそうだ。

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