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技術としてのフィラー

会話の合間合間に入る、「えー」とか「あのー」みたいな穴埋め語を、『フィラー』と言うらしい。直訳すれば『詰め物』『埋めるもの』という意味になるようで、美容医療の用語だとヒアルロン酸を注入したりするのもフィラーと呼ぶようだ。

即興演劇の劇団にいて、即興でセリフを言うことを言わば専門にしているわけだが、僕は割とこのフィラーが多い。もう少し減らしたいなぁと思って試行錯誤しているところだが、こういう癖を矯正するのはなかなか難しいものだ。

思い返せばこの『フィラー』、コンビでお笑いをやっていた頃に意図的に増やそうとして獲得した『技術』だったなと思い出した。コンビで漫才を始めたばかりの頃、2人とも演劇出身で、2人ともストイックだった僕たちは、漫才をやっても「セリフっぽく聞こえてしまう」「練習量が見えてしまう」ことが悩みだった。さもその時その場で思いついたことのように話し、その時初めて聞いたかのようにリアクションをするのが漫才の妙だ。しかしなかなかそうならない。そうやって模索する中で試したことのひとつがこの、『フィラー』だった。決まったセリフ以外の余計な言葉を増やすことによって、生っぽさを演出する。そのための『技術』だった。

例えばこちらから話を切り出す時、「今度合コンに行くことになって」というセリフをあえて、「『あのさ』、『実は』今度、『そのー』、合コンに行くことになって」と言う。『』の言葉は全て余計な言葉だ。しかしこれを入れることによって、その時その場で思いついて、相方に打ち明けようとしているということを演出出来る。これはリアクションの場合でも使える。例えば、「おかしいだろ!」というツッコミのセリフ。「『いや』『ちょっと待て』おかしいだろ!」にすると、その場で初めて聞いたことに対してリアクションをしている感を演出出来るのだ。もちろん毎回全てのセリフに余計なものを足すと聞きづらいし冗長になる。しかし例えば漫才の冒頭、いわゆるつかみの部分などに効果的に配置することによって、『人間味』を加えることの出来るスパイスになるのだ。何度も何度も練習を重ねて磨いて無駄を省いて仕上げた最高傑作が集まるはずのM-1グランプリ決勝クラスの漫才でも、技術としてのフィラーは確認することが出来る。

冒頭に触れた「フィラーを減らしたい」は、技術として意図的に使っているフィラーは残しつつ、癖として無駄に入ってしまうフィラーを減らしたい、ということになる。喋りの技術も無限にあるよなぁ、というお話でした。

と、言葉の技術について書いてみてふと気づいたけれど、文章を書く技術も無限にありますよね。この文章だけでも、『』と「」の使い分け、段落分けのタイミング、段落で分かれた各パートの文章量のバランス、語尾の使い分け、例えば「いう」とか「ところ」とかについて漢字にするか平仮名にするか……どう書いたらより伝わるか、より読みやすいか、より面白い(興味深い)か。ほとんど無意識に色んなことを考えながら、色んな技術を駆使しながら書いたり喋ったりしているのは面白いなと思いますね。

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