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【ショートコント】縛りプレイ

〔登場人物〕
光:ゆるぎない強キャラ。
玲央:攻撃的なネガティブ。
久志:穏やかなつっこみ。


(高三、二学期の修了式後。レストランで)
玲央:光、支払い、よろしくなー。
光:僕、お金を持ち歩くのはやめたんだ。
玲央:なんでだよ! お前の金をあてにして、いい店で打ち上げにしてるのに!
久志:玲央くんはいつもながら、あからさまだなー。たかりだよー、それ。
玲央:一学期は、全額出してくれただろ!
久志:去年もずっとそうだったよねー。てゆーか、それが目当てで光くんのこと誘ってるんだよねー。
光:それじゃ僕、ダメになる、って気付いたんだ。
玲央:なんで今更!
光:一学期の打ち上げの時、玲央が僕の人生のこと、「強くてニューゲーム」って言ったの、覚えてる?
玲央:そんなこと言ったか?
久志:玲央くんは、言われた悪口しか覚えてないんだよねー。
光:でさ。考えたんだよ。「強くてニューゲーム」の面白さって何だろうって。
久志:光くんは、悪口が効かないタイプだよねー。バカに釘。
玲央:それ、糠に釘な。久志、お前もたいがいだぞ。
光:しばらく考えてみたんだけど、そもそも強いって、面白くないじゃん。勝てる、って分かってるんだから。
玲央:なんか、ムカつく言い方だな。
光:それでさ、「縛りプレイ」をすることにしてみた。
久志:あ! それでか!
玲央:何が?
久志:僕、光くんの前の席じゃない。回収する時に見ちゃったんだけど、今回のテスト、全部白紙だったよね。
光:その通り! いいでしょ、「縛りプレイ」!
玲央:は? 俺たち、高三だぜ。調査書の成績、どうすんだよ。
光:だからこそ、「縛りプレイ」の意味がある。
玲央:バカじゃねえの。通知票見せろよ。
光:はい。
玲央:え? 俺より成績、全然いいんだけど。お前、金、積んだな! それで金がなくなったんだろ!
光:そんなつまんないこと、しないよ。
久志:そうだよね。そんなつまんないこと、考えつきもしないよね。つまんないこと考えつくのは、つまんない奴だよね。
玲央:うるさい。追い打ち、やめろ。
久志:でもさ、どうやってこんな成績とったの?
光:課題。
玲央:課題? そんな点数分、課題出てなくね? しかも、全教科。
光:授業の課題なんか出しても、面白くないでしょ。
玲央:何出したんだよ。
光:教科書。
玲央:教科書?
光:使いやすい教科書と、それに準拠したワークブックを作ってみたんだ。
久志:そういえば、二学期になってから、新しいテキスト配られた! 急に分かりやすくなって、僕、数学と物理、偏差値十五もあがったもん。
玲央:て、ちょっと待て。俺ももらったぞ。英語と世界史、成績上がったわ。もしかして、現文と古典の教科書も?
光:もちろん。全教科、全科目。
玲央:お前、私立理系だろ? 選択、全然違うだろ。
光:「強くてニューゲーム」なんだから、出来て当たり前、みたいなとこあるよね。
玲央:まじで、ムカつく。
久志:そんなことより、本当にいいテキストだったよ。そりゃあ、点数上げないわけにいかないね。
玲央:でも、大学入試はどうすんだよ。テスト、全部白紙ってわけにいかないだろ。
光:あ。言ってなかったけど、もう推薦もらったから、受験はしないんだ。
玲央:マジか! いいなあ。
久志:確かに、あんな教科書を作っちゃうんだから、それを自己推薦の資料として添付すれば、とってくれる大学、いくらでもありそうだよね。
光:あ、それはダメだった。
玲央:え? なんでだよ?
光:嘘だと思われた。
久志:なるほどー。クオリティ、高すぎるのも考えものだねー。
玲央:だったら、どうやって推薦もらったんだよ。
光:何かの証明になるかな、って思って、賞をいくつか取ってみた。
玲央:今、いくつか、っつった?
光:うん。ちょっと待って、数えるから。……十二個。
玲央:ありえねえ。
光:まあ、「強くてニューゲーム」なら、このぐらい当然だよね。だからこその「縛りプレイ」なんだから。
久志:縛ったことで、むしろ強さが際立ってるねー。
光:あ、でも、大学は行かないよ。
玲央:はあ? 合格もらったんだろ。
光:辞退したよ。だって、「縛りプレイ」なんだから、進路も縛らないと。
玲央:じゃあ、卒業したら何すんだよ。
光:起業。あ、でも、試験中にやっちゃった。
玲央:は?
光:みんなが問題解いてる時間、やることなかったから、事業のアイディアとかビジネスプランとか、いろいろメモして。それに、試験期間中は午後暇じゃない? 法的な手続きなんかは、そこでできちゃった。
久志:光くんは強すぎるなー。チートを通り越して、システムエラーだよねー、これじゃ。
光:じゃあ、そろそろ混んできたし、次の店に行こうか。
玲央:いやいや、次の店って。お前。金ないって言ってたよな。久志、いくら持ってる?
久志:お金なんて、持ってくるわけないよー。出す気ないのにー。
玲央:お前なー。俺ですら三千円は持ってきてるのに。
光:あ、支払いは必要ないよ。
玲央:は?
光:いや、ここ、僕の店だから。オーナーってやつ。
玲央:いやいや、最強すぎだろ。
光:やっぱり、人生は「縛りプレイ」の方が充実するね。
久志:ね。強キャラについていけば、レベリングは楽でしょ。
玲央:このゲーム、下りたくなってきた。

Photo by Spencer Davis on Unsplash

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