#11 アメリカで飲食店開業。いい物件見つけたけど、物件交渉どう進める?
さて、めでたくお気に入りの物件が見つかると、大家側と条件面の交渉を行うことになる。
アメリカの場合は、テナントからこういう条件で借りたいという基本条件を記載したプロポーザルを大家に提出するところから、交渉を始めるのが一般的だ。
テナントの提案に対し、大家側からカウンターが返ってきて、それを何度か繰り返して合意内容を決めていくという流れになる。
でもどういう内容でプロポーザルを出せばよいのか分からないという声があるかもしれない。
実際、相場をわきまえず、あまり高めのボールを投げると冷やかしと思われ交渉が打ち切られる可能性があるし、
相場より悪い条件で借りるのも嫌だろう。
物件によっては大家側からAsking Rent(募集賃料)が示されていることもあるが、Negotiable(要相談)となっていることが多い。
Asking Rentが示されていれば、それより少し安い賃料を投げてみればいいが、
そうでない場合は、自分で周りの相場をよく調べるか不動産仲介に相談して決めることになるになるかもしれない。
それでも、どういう内容の提案書にしたらよいか分からないという人も心配する必要はない。
なぜなら、大家側の不動産ブローカーにお願いすれば、大家側の希望に沿った内容の条件書を準備してくれるので、
それを元に、各項目の内容をいじって、カウンターオファーすればよい。
提案書の中で一番気になるのが賃料だが、
まずはアメリカの賃料体系がどうなっているか理解しておく必要がある。
アメリカにおける商業不動産の賃料体系は大きく分けて、
トリプルネット(NNN)リースと
グロスリース
の2種類がある。
※実際にはモディファイド・グロスリースというのもある
NNNは賃料の他に、
固定資産税、
建物の保険料
共益費(共用部のメンテナンス、ゴミ収集、ランドスケープ維持管理等)
の実費をテナントが負担するリース形態で飲食や小売りの商業不動産では一般的となっている。
アメリカでは路面店よりショッピングモールが一般的だが、そのモール全体に掛かるそれぞれの費用を賃貸面積などに応じて案分し、各テナントに負担してもらう仕組みだ。
NNNの部分は期初に想定額で請求し、期末に実際掛かった金額との差額を精算することになる。
NNNは実費負担という考え方なので、交渉はできないと思った方がいい。
尚、トリプルネット(NNN)というからには、もちろんシングルネットとダブルネットという賃料形態もあるが、あまり一般的ではない。
シングルネットの場合は固定資産税、ダブルネットの場合はそれに加え保険料をテナントが負担することになっている。
一方、グロスリースは、賃貸住宅と同じように、テナントは賃料のみを支払い、
大家がテナントから徴収した賃料から固定資産税や保険料を支払う形のリース形態である。
尚、人気のあるショッピングモールでは、固定賃料に加えて、歩合賃料(Percentage Rent)を要求される場合もある。
歩合賃料は、毎月の売上がある一定水準を超えた場合、その超えた部分の何%という決め方が多いようだ。
リースの条件交渉においては、賃料だけでなく、
リース期間
リースの延長オプション
フリーレント期間
Tenant Improvement Allowance(TI:テナント工事費の一部を大家が負担すること)
セキュリティ・デポジットの額
物件の用途
などを交渉することになる。
アメリカはインフレ社会なので、リース契約上、賃料は毎年3%程度上昇する
内容とすること、
また、リース期間は5年が一般的である。
人気のショッピングモールでは入居したいテナントもたくさんいるため、リース期間が終了すると追い出されることも想定されるため、
リースの延長オプションも出来るだけ付けておきたいところだ。
フリーレントはオープンまでは売上が立たず賃料が一方的に出ていくばかりなので、その負担を緩和する目的のものであり、
基本的にはリース契約をしてからどのくらいの期間でオープンできるかどうかをベースに交渉することになる。
言い換えれば、設計期間、工事に関する許認可取得期間及び工事期間をどのくらいで想定するかによるため、
大家は出来るだけ短く、テナントは出来るだけ長くしたいということになる。
実際にはアメリカではお店の開業まで1年は掛かることが珍しくない
が、
人気の物件では、大家はかなり強気の姿勢で3ヶ月以上は出せないということも多い。
一方、TIはテナントの内装工事の負担を軽減する目的のもので、賃貸面積1sf当たり何㌦支給という支給方法で、
工事が完成しCertificate of Occupancy(建物使用許可証)が下りた時点で支給されるのが一般的だ。
セキュリティ・デポジット(敷金)は、日本では賃料の何ヶ月分も取られるケースが多いが、アメリカの場合は賃料の1ヶ月分程度とするケースが多い。
内装工事費が、日本での感覚の倍くらい掛かることを考えると、セキュリティ・デポジットで節約できるのはありがたい。
物件の用途については、同じショッピングモール内の他テナントとの競合を避けるために、結構細かく規定されることになる。
例えば、僕の物件の場合だと、ベーカリー商品、サンドイッチ、デリ、カフェ・ドリンクのみで、その他の商品は売れない内容となっている他、
同じモール内に、別のカフェが存在するため、コーヒー関連ドリンクの売上が全体の売上の20%を超えないことという規定も設けられている。
大家としては将来のテナントのためにも、出来るだけ用途を絞っておきたいところであるが、
テナントとしては、途中でメニューを変更することなども想定し、出来るだけ幅広い用途を勝ち取りたい。
基本条件について合意するとリース契約のドラフトを作成することになるが、
大家の方で基本的なひな型があるので、それをベースに基本条件で合意した内容を盛り込んでいく。
基本条件で合意した内容はリース契約全体の極一部に過ぎず、リース契約は何十ページから構成され、専門用語も多いため、
例え英語が得意だったとしても、最初は専門の弁護士にチェックしてもらうことをお勧めする。
尚、大家に対して、プロポーザルを提出するのと並行して、リース申込書を提出する。
申込書は、申込人の信用調査目的で、収入や資産の他、職歴、取引銀行などを記載する内容になっている。
自分の経験や、友人の経験、不動産エージェントとのやり取りから判断して、
純資産が50万㌦程度ないと、交渉相手と見なされない可能性が高い。
第一話はこちら。
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