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#9 アメリカでの飲食店経営に弁護士と会計士は必要か?

会社を設立したり運営したりする時に、意外と多くの人が気にするのが、

弁護士や会計士は必要かどうかということ。

自分の実際の経験を踏まえての結論は、どちらの業務も自分でやろうと思えば出来る、

だけど時間が掛かるから最低限必要なことはプロにお願いして、

自分の貴重な時間は本業に費やした方がいいと思う。


飲食店を開始する時にまずお世話になるのが弁護士。

物件のリース契約について、一方的に不利な内容が含まれていないかどうか、

何か問題が生じた時に解決する方法が妥当かどうかなどをチェックしてもらう。

僕の場合は55ページのリース契約をチェックしてもらって2,000ドルの弁護士報酬を支払った。

最初に日本人の弁護士に見積り取ったら6,500ドルと言われ、

流石にそれは高過ぎると思い、米国人弁護士にお願いすることにした。

自分がテナントとして初めて結ぶリース契約だったし、

リース契約には専門的な言い回しもあり簡単に理解できない内容も含まれているため、お願いしてよかったと思うが、

チェックするポイントはよく分かったので、もし次にリース契約を締結する機会があれば、

弁護士にお願いせず自分でやってみようかなと思っているし、

実際、リース契約締結後、契約内容の修正・変更に5回Amendmentを締結したが、それらは全て自分でやった。

尚、弁護士にチェックしてもらい修正して大家に返しても、

大家からはその変更は受け入れられないなどの返答があることも珍しくない。

弁護士はあくまでアドバイスをしてくれるだけで、

最終的に決めるのは自分自身なので、絶対に譲れないポイントなどを自分なりに整理する必要がある。


リース契約締結後は特に大きな問題が発生しない限り、弁護士にお世話になることはあまりないと思うが、

僕の場合はリース契約のある条項の解釈について弁護士に相談したことがあった。

物件の内装工事が完了し、あとは就労ビザを取得して渡米するだけという時にパンデミックが起こった。

リース契約では2020年3月31日から賃料が発生することになっていることに加え、

2020年5月31日までにお店をオープンしないと大家がリース契約を解除できる内容となっていた。

パンデミックによりビザ発給が無期限で停止されたため、

開店の目途が立たないのに賃料を支払い続けることになるリスク、

また大金を投じて内装工事・厨房設備設置を行ったにもかかわらずリース契約を解除されるリスクがあった。


人生が終わるかもしれないという思いでリース契約を何度も読み返し、

賃料発生時期を遅らせる手段がないか必死で探した。

フォースマジュール(不可抗力)の条項を見つけ、パンデミックがフォースマジュールに該当しないか弁護士に相談した。

フォースマジュールとは戦争や天災、突然の法改正など当事者が制御できない外的事由により契約の履行が困難になった時のことを定めたもの。

弁護士に相談すると、パンデミック自体はフォースマジュールに該当するものの、

リース契約上はそれによって賃料の支払いは免れないとの解釈だったが、

大家に対して賃料減免の要望をオフィシャルなレターで提出してはどうかとのアドバイスをもらった。

すぐに大家に窮状を訴えて結果的に追加で3ヵ月のフリーレントを付与してもらうとともに、

本件によってリース契約の解除はしないとの言質を取った。

因みに、当たり前のことだが、弁護士に相談するとその度に相談料を請求される。

そしてその金額にびっくりする。


この時はリース契約の解釈だけで640ドルの請求書が届いたが、

こちらは生きるか死ぬかの状況なのにと泣きついて半額にしてもらった。

その他では、お店のスタッフを解雇した時に、訴訟リスクを軽減するために弁護士に相談したことがある。

この時は相談前に、弁護士から私の時給は450㌦ですが、よろしいですか?と聞かれ、

時給が450㌦ってすげーなと思った。


でも、結果的には相談してよかったなと納得している。

僕の友人で何かあった時のために備えて顧問弁護士を抱えている人がいた。

訴訟社会の米国ではいざという時に役に立つかもしれないが、

何も相談しなくても毎月数百ドルの顧問弁護料を支払うことになるため、本当に必要かどうかはよく検討した方がいい。

一方、会計士は、会計や給料計算、税金の支払などで毎月お世話になり、

会計士によっては経営のアドバイスまでしてくれるコンサル的な人もいる。

飲食店の会計は、売上、原価(材料費)、人件費、家賃、光熱費など単純な項目しかないし、

最近はQuickbooksなどの会計ソフトもあり、うちのお店で使用しているPOSは給与計算や税金計算までする機能があるので、

会計士にお願いせず自分でやるという選択肢もある。

僕自身はそれなりに会計知識もあるし、数字にも強いという自負はあったけれども、

コロナ真最中の開業でお店の日々の業務だけで精一杯で、そんな余力もなかったので、

会計士にお願いすることにした。

月次会計業務、売上税や社会保障税等の納税業務、源泉徴収含む給与計算・振込業務の主に3業務で月額300ドル。

それに毎年の決算(確定申告)時に約500ドル。

自分としてはかなり安いと思っている。

その他に、州のEDD(Employment Development Department:雇用開発局)に対して、

四半期毎に従業員への給与支払額の報告及び新規従業員の採用登録をする必要があるが、

その手続きも通常業務の一環としてお願いしている。

EDDは日本で言うハローワークで、失業保険の給付認定などを行っており、

雇用者はUnemployment Tax(失業保険)とTraining Tax、従業員はDisability Insurance Taxを負担することになっており、

これも納税業務の中に含まれている。

僕の会計士は積極的に経営アドバイスをくれる人ではないが、

ローンの相談や法改正などの情報(最低賃金、年金などの社会保障関連)など

こちらから聞けば何でも相談できるので便利な存在だ。


開業当初は少しでもコストを削りたいところかもしれないが、十分に元が取れる存在だと思う。

例えば、僕が相談したことの一つはコロナ禍でのEmployee Retention Tax Creditの申請。

コロナにより失業率が高まる中、政府が雇用を継続するスモールビジネスに対して税金の還付(もしくは給付金の支給)をしていることを知り、

過去の確定申告の修正申告してもらい、10万㌦以上の給付を受けたが、

これがなければ、今頃お店を継続できていなかっただろう。

弁護士と会計士、どちらも状況に応じて上手く活用するのが重要だと思う。

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