アナザー・ライフVR 3話【創作大賞2024 漫画原作部門】

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幸せだった日々を思い出し、秋山は意気揚々と自宅へ向かって走っていた。

秋山「はぁ……はぁ……」(早く家族に会いたい…会わなきゃ!)

静江や灯里の笑顔を思い出す秋山。

秋山(静江に、灯里に、家族に!
 会いにいかなきゃ!)

だんだんと紅潮し笑みを浮かべる秋山。
秋山(そうだ!
 あの時の香水をもう一度
 静江にプレゼントしよう!
 きっと喜んでくれる…それで静江との関係をやり直そう!
 もう一度、幸せになるんだ
 幸せにしてやるんだ!)

秋山の自宅があるマンションに向かって秋山は全力で走った。


だが――。

静江「ふざけないで」

秋山「え?」

静江は眉間に皺を寄せて秋山に冷たく怒る。
そんな静江を見て、秋山は冷や汗をかきつつ、プレゼントの入った紙袋を見せる。

秋山「ど、どうしてだよ……
 これ…お前に喜んで貰おうと思って……さぁ!」

静江「いらない」

秋山「は?」

静江「いらないって言ってるの!」

静江が紙袋を叩き落とす。
パリンという音。
香水の液が紙袋から滲み床に溢れる。

秋山「な、なんでだよ……
 俺、お前とやり直したいんだ」

静江「……何をやり直したいの?」

秋山「何をって……もう一度あの時の日々をさ
 な? わかるだろ?」

静江「わかるわけない……」

秋山「な、なんでだよ」

静江「わかるわけないでしょ!」

静江の怒鳴り声で秋山は目を丸くする。

静江「あの時の日々?
 いったい何のこと?
 もう一度、私を苦しませるの?」

秋山「いや、違う…って……
 苦しむって……お前こそいったい何の話を」

静江「忘れたとは言わせないわ!
 私の妹と不倫したでしょ!」

秋山「…………は?」

顔を青くさせ立ち尽くす秋山。

静江「14年前の私の誕生日!
 千春と連絡先を交換!」

秋山「……」

静江「私が妊娠中に連絡して何回も!」

秋山「……」

静江「何回も何回も何回も何回も関係を持った!」

秋山「……」

静江「私がこれをつけてない時に!
 帰ってきたあなたから!
 同じ匂いがした時の私の気持ちわかる?」

静江は床に落ちた香水を指差す。

秋山「アァ」

静江「子供ができたからって
 仕事を辞めさせられた直後に
 あなたの不貞を知った時の私の気持ちわかる?」

秋山「アァァ」

静江「問い詰めた時
 あなたのめんどくさそうな顔を見た
 私の気持ちわかる?」

秋山「アァァァ」

静江「今後一切!
 この話を持ち出さないで!」

――――
――

秋山「アァァアアアアアァアアアア!!」

秋山は近くに置いてあった花瓶を持って、静江の頭を殴ろうとする。
ゴッと鈍い音がした後に秋山の目の前は真っ暗になった――。


マスター「……やま……ま?」

薄っすらと暗い中、人にシルエットが見えた。

秋山(……?)

マスター「あき……さま?」

秋山(なん……だ?)

マスター「秋山様!」

秋山「ハッ!」

秋山は冷や汗をかき、大きく目を見開いて驚いたように目を覚ます。
秋山の目の前にはマスターの笑みを浮かべた顔が見える。
ゆっくりと周りを見ると、いつものアナザーライフの店内。
3番の部屋の椅子に秋山は座っていた。

マスター「あぁ……よかった
 ゲームが終わったはずなのに
 部屋から出てきませんでしたから
 心配しましたよ」

秋山「あ、あぁ」

秋山は顔を片手で覆い椅子から起き上がる。

秋山「すまない……」

マスター「いえいえ
 無事で何よりです」

秋山「あぁ……もうこんな時間か……」

秋山は腕時計を見るフリをして慌てたように立ち上がる。

秋山「もう帰らないと」

マスター「そうですか?
 まだそんな遅くはありませんが?」

秋山「いや……今日はもう帰るよ
 ……いつもありがとうな」

マスター「そうですか
 ではまたのお越しをお待ちしています」

逃げるようにアナザーライフから退散しようとする秋山に

マスター「秋山様?」

と呼び止める。
秋山が振り向くとマスターは真面目な顔で秋山を見ていた。

秋山「なんだ?」

マスター「……ゲーム内で、誰か……
 殺していませんよね?」

秋山「…………」

秋山はマスターをしばらく見た後、「ハッ」と笑みを浮かべる。

秋山「そんなわけないだろ?
 変な冗談よしてくれ」

その秋山を見て、マスターも笑みを浮かべる。

マスター「そうですか……ではまた」

秋山「あぁ。またな」

秋山は前を向いて歩き出す。
その表情は不気味な笑みを浮かべていた。

秋山(これはいい)


秋山(――それから俺は〝ソレ″にハマった)

★★★

会社のオフィスで秋山を怒る上司。
上司「秋山ぁ! なんだ! これはぁ!?」

秋山(ムカつくことがある度に)

上司をボールペンで殺す秋山。
血しぶきが飛び散る。

★★★

自宅の寝室で寝ている時に、タオルを持って秋山に怒りに来る灯里。
灯里「ちょっとお父さん!」

秋山(何人も)
灯里の首をタオルで絞める秋山。
苦しげにうめき声を上げる灯里。

★★★

自宅へ帰る途中。
タバコを捨てたことで警察官に注意を受ける秋山。
警察官「ちょっと、お兄さん? タバコのポイ捨ては――」

秋山(何人も)

警察の拳銃を奪い発砲する秋山。

★★★

アナザーライフの3番の部屋に入り、気持ちの悪い笑みを浮かべながら、秋山はヘッドセットを被ってVRゲームに熱中する。
秋山(何人も何人も)

背景には色んな方法で誰かを殺害する秋山の姿が走馬灯のように流れていた。

秋山(アナザー・ライフ上で殺し続けた)

★★★

秋山(ストレス発散になるし、良い事もあった)

会社のオフィスで秋山を怒りに来る上司。
上司「おい! 秋山!」

秋山「はい」

上司「――ッ!!」

その上司を殺気を込めた瞳で見る秋山。
上司は秋山の雰囲気に怯む。

秋山「なんでしょうか?」

殺気を込めた瞳の中に映る上司は冷や汗をかき、ビビっている様子。

上司「チッ……なんでもない!」

上司は逃げるように去っていく。

秋山(ふん。雑魚が
 あとでゲーム内で殺してやる)

★★★

秋山はアナザーライフの3番の部屋で、鼻歌をしながら不気味に笑い、
秋山(いい使い方を見つけた)
とモニターでゲームの設定をする。


秋山「今日は誰を殺そうか」


―――
――

静江「これにサインして」

秋山「あぁ?」

夜。
秋山の自宅で、離婚届をテーブルに出す静江。
立ちながらネクタイを緩めている秋山はそれを見て目を丸くする。

秋山「なんだこれ?」

静江「あなたと別れたいの」

冷や汗をかき、離婚届を出す腕も震えている静江。

秋山「どうしてだ?」

秋山は静かにキッチンへ向かう。

静江「前々から考えていたの
 仕事も見つけたし
 灯里ももう高校生だし
 そろそろ良いんじゃないかって」

秋山「うん」

ゆっくりと静江のところへ戻ってくる秋山。
後ろに何かを隠している。

静江「それに……」

秋山を怯えたように見る静江。
歯をガタガタと震わせている。

静江「最近のあなた……
 とても怖いの」

秋山「そうか」

深い黒色の目をしつつ無表情で秋山は包丁を掲げて静江を襲う。

―――
――

横たわって死んでいる静江にまたがっている秋山。
秋山の顔には返り血が付き、静江は何度も刺された跡があった。

秋山(また静江を殺しちゃったな……)

恍惚した顔で舌なめずりする秋山。

秋山(まぁアナザー・ライフ内
 ログアウトすれば元通りだな
 あれ? 起動してたっけ?
 何分って設定した?
 まぁいいや……7日経てば自動でログアウトする)

秋山がそう考えているところでドサッと扉の前で鞄が落ちる音がする。

秋山「?」

リビングに入る扉の前で青ざめた灯里の姿が見えた。

灯里「な……なにしているの……? お父さん……」

身体をガタガタと震わせて秋山を指差す灯里。
その灯里を見て、秋山は口角を歪めて、襲い掛かる。

秋山(その間、ムカつく奴、片っ端から殺そう!)


テレビ「続いてのニュースです」

アナザーライフの店内で、マスターは椅子に座りテーブルに足を掛けてテレビを見る。

テレビ「○○市在住の秋山治明を連続殺人の容疑で逮捕しました。
 男は『これはゲームだ。もうすぐログアウトする』と供述しており――」

マスター「おや……だから忠告しましたのに」

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