アナザー・ライフVR 1話【創作大賞2024 漫画原作部門】

あらすじ

アナザー・ライフVR
それは自分の人生を擬似体験できるVRゲーム。

秋山治明は人生を後悔し、妻子がいるが冴えない生活を送っていた。
ある日、アナザー・ライフVRで過去をやり直した未来を体験できることを知り、次第にこのゲームにのめり込んでいくが……。

121文字

1話


モノローグ「人生は選択の連続だ」

薄暗いマンションの一室。
そのリビングで、ザクッザクッという音が聞こえるのと同時に、スカートを履く女の脚が微かに揺れていた。

モノローグ「選択したら二度と元に戻れない。
 選ばなかった選択肢は二度と見ることができない」

その女に跨り、秋山治明は無表情で血濡れの包丁を逆手で握り、
秋山「…これはゲームだ……
 …これはゲームだ……」
とぶつぶつと呟いていた。

モノローグ「けれどもし選択しなかった先を体験できたら――」

秋山は不気味に口角を上げ、包丁を振り下ろす。


仕事からの帰る途中。
くたびれた様子で夜の住宅街を秋山は歩いていた。
秋山「はぁ……」

歩きながらゲンナリとした顔で秋山は、今朝の出来事を思い出す。
秋山(今日は朝から最悪だった)

今朝。秋山の寝室。
いびきをかいて寝ている時、ドアが思いっきり開いた。
灯里「ちょっとお父さん!!」

秋山の娘の灯里が怒りの表情で部屋に入ってきた。

秋山「んぁ!? あ?」

灯里の声で秋山は飛び起き、寝ぼけ眼で娘を見る。
灯里は使用済みの可愛らしいタオルを秋山に突き付ける。

灯里「私のタオル
 勝手に使ったでしょ!」

秋山「え? ……あぁ」

そのタオルを見て、昨夜の風呂上がりに使ったことを思い出す。
秋山「それ、灯里のだったのか?」

灯里「そうだよ!
 なんで勝手に使ったの!?
 今朝使おうと思ったのに!」

秋山「そんなの……
 別のタオルを使えばいいだろ?」

灯里「そういう問題じゃない!
 しかもお父さんの毛が……!
 もうこのタオル使えないじゃん!
 とにかく今後いっさい私のに触らないで!」

ドアを思いっきり閉める灯里に唖然とする秋山。

★★★

灯里に無理矢理起こされたせいで、まだ頭が動かない。
だが、それでも秋山はスーツに着替えリビングに出てきた。

秋山「あぁ〜……くそ」

寝室の扉の前で欠伸をする秋山。
秋山(灯里に中途半端に起こされて、まだ眠い)

ソファでテレビを観ている妻・静江を見る。
秋山「おい、静江
 灯里は?」

静江「もう出た」

秋山「そうか……飯は?」

静江「テーブルにあるじゃない」

静江は冷たくそう言うと、秋山はテーブルを見る。
ラップがしてある朝食が置いてあった。

秋山「……あぁ」

静江「それと今日、私と灯里、夜いないから」

秋山「はぁ? なんで?」

静江「言ったでしょう?
 最近できた近くのイタリアンに行くって」

秋山「はぁ!?
 じゃあ俺の飯は!?」

静江「……勝手にどこかで食べればいいじゃない」

静江が全く見ずに冷たく言う態度に秋山は舌打ちをする。
秋山「…………わかったよ」

ぶっきらぼうにそう言うと、秋山は朝飯に手をつけずに出掛ける。

静江「…………」
テレビを真一文字に見る静江の目は暗かった。

★★★

秋山(それから)

会社のオフィスで、怒りで顔を赤面させた秋山の上司。
秋山の上司「お前、なんだ!?
 この数字!
 間違いだらけじゃねぇか!!
 やる気あんのか!?」

秋山「申し訳ありません」
頭を下げる秋山。

秋山(会社でミスが多発し)

★★★

昼休憩になり定食屋に行くが、ちょうど来たばかりの飯を前にして、携帯を耳にあてる秋山。
秋山「は? システムがダウン?
 戻れ?
 いや、でも俺まだ昼」

携帯から怒鳴り声が聞こえ、切れる。
秋山は大きくため息を吐き、飯も食わずに渋々立ち上がる。

秋山「はぁ……」(昼返上でトラブル対処にあたり)

★★★

夜までトラブル対処が続き、漸く終わったと安堵の息を吐く秋山。
秋山「や……やっと帰れる」

しかしいきなりオフィスの電気が消えた。
それに驚き、焦ったようにパソコンをカタカタと操作する秋山。
秋山「!? 嘘だろ?」(オフィスが停電し)

★★★

回想が終わり、夜の住宅街に戻る。
秋山(ようやく帰れたのがこの時間……)

秋山は腕時計を確認する。
時間は22時を回ったところだった。
秋山はため息を吐いた。

秋山(もう静江達
 帰ってきてるだろうな…
 まだ起きてるよな?)

腹が鳴り、秋山は腹を抑える。

秋山(腹減った……
 けど静江は飯作ってくれねぇだろうな……
 灯里もまだ怒ってるだろうし)

秋山「はぁ……帰りたくねぇ」

秋山(そもそも俺の人生こんなだったか?
 妻の静江との関係は冷え切って
 娘は絶賛反抗期中で常に機嫌が悪く
 職場はブラックな上、上司には嫌われている)

秋山(どこで間違えたんだろうな?
 高校のサッカーの大会で派手に転んだ時か?
 大学受験で失敗した時か?
 大手有名会社の面接の日に風邪引いた時か?)

秋山「って考えても過去になんて戻れるわけねぇし……」

ため息を吐くと、横が何やら明るく感じて立ち止まる。

秋山「ん?」

立ち止まったところには店があった。
煌びやかな電灯で飾り付けられた看板には『VRゲームバー・アナザーライフ』と書かれていた。

秋山「ゲームバー?」

秋山(アナザーライフ……『もうひとつの人生』……
 変な名前だな
 バーだったら飯もあるか?
 ちょうどいい……ゲームも昔は好きだったし
 ちょっと寄らせてもらおう)

 秋山はゲームバー・アナザーライフに入っていく。


恐る恐る店内に入ると、バーカウンターがありその奥にこの店のマスターらしき男が立っていた。
周りを見渡しながらバーカウンターに座り、秋山はタバコに火を点ける。

マスター「いらっしゃいませ。ご注文は?」

秋山「ビールとつまみをくれ」
マスター「――どうぞ」
秋山が言い切る前にマスターはビールとナッツを出す。

秋山「お、おぉ…
 早いな。どうも」

秋山はナッツを食べて、周りを観察する。

秋山(見たところ
 普通のバーみたいだな
 ゲーム機もないし
 テレビはあの小さいのしかない)

カウンターテーブルの端に小さいテレビが置かれていた。

秋山(ゲームができるような席もないし……
 気になるのは奥のいくつもある扉くらいか)

奥にある扉を秋山は一瞥する。
扉は五つくらいあり、上には番号が振られている。
秋山はマスターを見る。

秋山「ここにはどんなゲームがあるんだ?」

マスター「アナザー・ライフです」

秋山「? それはここの店の名前だろう?
 俺が聞いてるのは
 この店でできるゲームについてだ」

マスター「えぇ
 ですから『アナザー・ライフVR』
 ただひとつとなります」

ニヒルな笑みを浮かべてそう答えるマスター。

秋山「アナザー・ライフ……?」
秋山(聞いたことがないゲームだ)
秋山「どんなゲームなんだ?」

マスター「ずばりお客様の人生を擬似体験できるVRゲームです」

秋山「擬似体験?
 なんだそれは?」

マスター「そうですね〜。
 このゲームはAIを利用して
 お客様の記憶を読み取り
 それを元に構築した世界を
 VRゲームとしてプレイできます
 楽しかったこと…嬉しかったこと…
 お客様の記憶でそういったイベントを
 もう一度体験できるのです」

秋山「……つまり過去に戻れるということか?」

マスター「その通り!」

マスターは秋山に興奮したように顔を近づける。

マスター「アインシュタインの相対性理論により過去に戻るには光を超えたスピードで運動する必要がありますが、光速度不変の原理によって光より早く動けません。ましてや人間の質量では光の速度に達することなど不可能ですから、現実では過去になんて戻るなんて夢物語! ですがゲームであるならいくらでも過去に戻れます。『アナザー・ライフVR』を使えば限りなくリアルに近い感覚で擬似的に過去に戻れるんです! お客様の記憶をAI――人工知能が読み取り――」

秋山「あぁーあぁー!
 難しい話はやめてくれ」

マスター「……これは失礼」
マスターは冷静さを取り戻したように姿勢を正す。
マスター「いかがです?
 楽しそうでしょう?」

秋山「あぁ…そうだな」

マスター「それでは!」

秋山「成功した人生を送っていたならな!」

マスター「おや……?」

秋山「あいにく俺は後悔ばかりの人生を送ってきたんだ
 人生の選択を間違いまくった
 おかげで妻も娘もいるが、冴えない人生を送ってる
 今日だって失敗しまくりだ
 そんなてめぇの人生を誰がもう一度体験したいと思う?
 残念だが俺には合わないようだ
 もう出るから勘定してくれ」

マスター「あぁ…そうですか……
 残念です」

秋山「すまないな」
秋山は財布を出してお札を出そうとする。

マスター「失敗を消した未来も体験できるのですが」

秋山「……なんだと?」

秋山の動きが止まる。
マスターはニヒルな笑みを浮かべる。

マスター「もしお客様が選択に失敗したというなら
 その選択を変えることもこのゲームでは可能です
 選択を変えた先の未来も体験できます」

秋山「そんなことができるのか?」

マスター「あぁ…もちろん擬似的にですよ?
 それに今の人生を満喫してらっしゃるなら
 おすすめは致しません
 人によっては惨めになるだけですから」

秋山「……なるほどな」
秋山(つまり過去に戻って
 俺の人生を自由に
 シミュレーションできるゲームってことか」

 秋山は考えるように顎に指を当てる。

マスター「なんなら初回ですので
 特別に無料とさせていただきますが?」

秋山「タダ? いいのか?」

マスター「えぇ。必ずハマると思いますので」

秋山は少し考える素振りを見せてから
秋山「じゃあやらせてくれ」(クソゲーだったらすぐにやめてやる)

マスター「ありがとうございます
 ではあちらの3番のお部屋にお進みください」

 マスターは部屋の奥にある扉に秋山を誘導する。


3番の部屋に入ると、リクライニングの出来るゲーミングチェアのような柔らかそうな椅子があった。
秋山はその椅子に座らされ、VRゴーグルがついたヘッドセットを頭に装着させられた。
そして手首にも電子機器が巻き付けられる。
マスターは近くのモニターで何かを操作していた。

マスター「それではいつに戻られますか?」

秋山「そうだな……
 ……俺が高三の6月22日
 時間は十時半にしてくれ」

マスター「……具体的ですね」

秋山「あぁ」(あの日は忘れたくても忘れられない)

マスター「わかりました
 ではそのように設定
 楽な姿勢になってください」

マスターにそう言われて、秋山は身体を楽にする。

マスター「起動します」

マスターがモニターに映ったパネルを押すと、ヘッドセットからキュィィイインという機械音が流れた。
すると秋山の目がだんだんと重くなってきた。

秋山(あれ……?
 だんだん眠けが……?)

マスター「それでは秋山様
 フルダイブ型VR『アナザー・ライフVR』の世界へ
 いってらっしゃいませ」

秋山(? あれ……俺
 名前なんか言ったか……?
 まぁいいか……)


周囲の喧騒が聞こえてきて秋山は目をゆっくりと開けた。
見渡すと、見覚えのあるサッカーグラウンド。
秋山は自分の身体を見ると高校の時のユニフォームを着ていた。

秋山は自分の姿とグラウンドの様子を見て、

秋山「……本当に戻ったのか?」

と半信半疑の様子だった。
しばらく立って周囲を見ていると、ボールが秋山の足元に転がってきた。

秋山「!!」

監督「おい!
 何してやがる! 秋山!
 時間がねぇ! 走れ!」

ベンチから監督が秋山に向かって怒鳴る。
その様子を見て、秋山は慌ててドリブルをし始めた。

秋山(ドンピシャだ!
 この瞬間だ!)

ドリブルをしながら秋山は嫌な思い出を思い出す。

秋山(高三の夏
 俺はこの日大きな失敗をした
 高校サッカー選手権の東京予選決勝・後半戦
 得点は3ー3。時間は残り3分!
 ここでボールを取られればもう負けるという大一番で…)

ドリブルをする秋山に同じユニフォームを着た男が声をかけた。

男1「へい! パスだ!」

秋山(俺はエースのあいつの声に反応して
 パスを出そうとして派手に転んだ
 その結果、ボールは敵チームに奪われ惨敗
 全国へのキップを逃した
 この一件で俺は監督から怒られ
 仲間には失望され
 俺は二度とサッカーをやらなくなったんだ)

秋山「だから!」

秋山は男1の言うことを無視して、ゴールに向かってドリブルし始めた。

男1「あ、おい! 治明!
 ボールをよこせ!」

敵チームがボールを奪いにくるが、秋山は全て躱す。
そしてゴールキーパーと一対一になり、秋山はシュート。
ゴールを決める。笛が鳴った。歓声が上がる。

秋山「ウォォオオオ!」

握り拳を両手にガッツポーズをして雄叫びを上げる秋山。
秋山に飛びかかるチームメイト達。

男1「治明! やったな! これで俺達は全国だ!」

監督「お前はやる男だと思っていたぞ!」

秋山は嬉しそうに笑みを溢して幸せを噛み締めた――――。

――――
――


アナザーライフ店内に戻り、秋山は目を覚ましヘッドセットを外した。
椅子のすぐそばでマスターは秋山の様子を伺っていた。

マスター「おかえりなさいませ
 いかがでしたか?」

秋山は笑みを溢した。

秋山「最高だった!」

秋山は興奮したように捲し立てる。

秋山「全国なんて十年ぶりの快挙!
 ゴールを決めた俺は一躍ヒーロー!
 試合が終わった後も打ち上げで
 夜までずっとはしゃぎまくったさ!」

マスター「…………」

秋山「やっぱりあいつにパスすべきじゃなかったんだ!
 俺がゴールを決めれば勝ててた!
 あいつにパスと言われなければ
 俺はドリブルするつもりだったんだ!
 負けたのは俺のせいじゃない!
 パスくれなんて言った目立ちたがり屋のエースのせいだ!
 それがわかっただけでも収穫だったよ」

秋山は目を輝かせ清々しい表情をしていた。
マスターはそんな秋山を見て微笑んでいる。

マスター「フフ……お気に召したようで」

秋山「あぁ! 気に入った!
 このゲームは面白いよ!」

マスター「それはよかった」

秋山はマスターを申し訳なさそうな顔で見た。
秋山「だけど……マスターも大変だな」

マスター「? なにがです?」

秋山「俺がこのゲームで遊んでる間
 ずっと待ってたんだろ?
 12時間くらいこのゲームに入ってたからな」

マスター「フフ……滅相もありません。
 それにそんな時間
 経ってはいませんよ」

秋山「嘘つけ
 朝の試合から夜までずっとはしゃいでたんだ
 謙遜するな
 まったく今日が金曜でよかったよ」

と腕時計を見ると、「!!」と秋山は目を丸くする。

秋山(十分しか経ってない…?)

腕時計をマスターに見せて驚くように叫ぶ秋山。
秋山「い、いったいどういうことだ!?」

そんな秋山の反応を楽しむようにマスターは口角を上げた。

マスター「『アナザー・ライフVR』は
 時間の流れ方が現実とは異なるんです
 VR内の一日が現実の二十分
 秋山様はアナザー・ライフで
 12時間体験しましたが
 実際には10分しか経っていないのです」

唖然として腕時計を見直す秋山。
秋山「マジかよ……じゃあ一時間やるとしたら」

マスター「VR内では三日間となりますね」

マスターは指を二本上げる。
マスター「ただし条件が二つ
 このゲームは一日140分までとさせていただきます」

秋山「つまりVR内には一週間しか居れないってことか?」

秋山は脳内で「140÷20=7」という数式を思い浮かべた。

秋山「全然構わない
 そんなに長くいることなんてないだろうし
 もうひとつは?」

マスター「一度ゲームを始めたら最後
 設定した時間までは出ることができません
 何があっても……ね」

不気味な笑みを浮かべるマスターに

秋山「…………」

秋山はゴクリと喉を鳴らす。

秋山(たかが俺の人生だろ?
 危ない目に合ったこともないし
 ……大丈夫だろ)

秋山「はは。わかったよ」

マスター「ご理解感謝いたします」

秋山「じゃあもう出るわ。結構楽しかった」

マスター「そうですか。ご来店ありがとうございました」

マスターは深く礼をする。

マスター「またのご利用、お待ちしております」


モノローグ「翌週」

秋山はアナザーライフ店内に入ると、マスターが深々とお辞儀をした。

マスター「いらっしゃいませ…秋山様」

アナザーライフを楽しみにしていて少し興奮した様子の秋山。

秋山「あぁ! また来たよ」

マスター「フフ……お気に召したようで
 お飲み物はどうされますか?」

秋山「いや、いい
 そんなことより早くゲームをやらせてくれ」

マスター「そうですか
 では3番のお部屋に」

秋山「あぁ」

秋山は3番の部屋に向かおうとする。

マスター「あ、そうそう」

秋山「?」

マスター「二つ程
 ご注意があります」

マスターは指を二本上げる。

秋山「なんだ?」

マスター「他人に意思決定させる行動はおすすめしません」

秋山(? 意思決定?
 よくわからんし流しておこう)
秋山「わかった。それから?」

マスター「ゲーム内であっても1年以内には戻らないようにしてください」

マスターは不気味な笑みを浮かべる。

マスター「現実と区別がつかなくなる可能性がありますから…
 特に、罪を犯すようなシミュレーションは……
 避けることをおすすめします」

秋山「ふん」

秋山は鼻で笑う。

秋山(なんのことかと思えば脅かしやがって)
秋山「そうか。わかったよ。肝に銘じとく」

秋山(俺の過去なんだ
 どうしようが俺の勝手だろうが)

 秋山はマスターに手を振りながら3番の部屋に入っていく。


ヘッドセットを被り椅子に座る秋山。
秋山(それから俺はこのゲームにのめり込んだ)

★★★

中学の教室で、クラス一の美女の香奈と仲良く話す秋山。
秋山(中学に戻り恥ずかしくて話せなかったクラス一の美女・香奈ちゃんと話したり)

大学の講義室で、入学試験を受ける秋山。
秋山(大学受験の時に戻りマークがズレて落ちた大学の入試にもう一度、挑戦したり)
マークシートを満足げに見つめる秋山。
秋山「これで完璧だ」

客先の会社で、上司が頭を下げるの含み笑いして見下す秋山。
秋山(2、3年前に戻り上司のミスなのに責任を取らされた案件で上司に責任を押し付けたり)
上司「大変申し訳ありませんでした。
 全て私の責任でございます」

秋山(そうやって俺は人生をバーチャルでやり直した)

★★★

現実の世界で、秋山はストレス発散したような顔で鼻歌を歌いながら仕事をする。

秋山(現実にも影響があった!
 過去を見直した影響か
 どう立ち回れば失敗しないか
 何を言えば怒られるか
 それがわかるようになり
 業績は伸び上司からの心象も良くなったし
 灯里の機嫌も悪くならなくなった。
 だが……」


アナザーライフ店内のカウンターでビールを飲み黄昏る秋山。
秋山「はぁ」

マスター「どうされましたか?」

秋山「いや」

マスター「何かご不満な点でもありましたか?」

秋山「あぁ〜違う
 そういうわけじゃないんだ」

マスターの心配そうな表情に秋山は慌てて首を横に振る。
秋山「あのゲームは最高だよ
 五感もリアルだし出てくる人の性格も完璧にその人
 本当に過去に戻ったみたいだ」

秋山は頬杖をつくと、

秋山「ただ……俺の後悔って案外少ないんだなって思ってな」

マスター「そうですか?
 結構な頻度で通っていたと思いますが」

秋山「まだ一ヶ月くらいだろ?
 一年くらいは楽しむつもりだったんだ」

マスター「なんと!」

秋山「このゲームを悪く言うつもりはないが
 意外と制限があってな」

マスター「ほう」

秋山「最近のことは戻ることができないし
 過去に戻っても一週間までしかできないから
 それまでに解消できることじゃないとダメだ」

秋山「例えば大学入試をやり直して第一希望に合格できても
 一週間以内だとその大学で遊べないから無駄みたいな
 そう考えると、できることって意外と少なくてな」

マスター「なるほど」

秋山「なぁ、マスター
 140分って条件なんとかならないか?」

マスター「大変申し訳ないのですが
 システムがダウンしてしまいますので……」

秋山「だよなぁ〜……なんかないかなぁ?」

マスター「そうですね〜
 秋山様はやり直し以外はなさらないのですか?」

秋山「!? やり直し以外?
 単純に過去に戻るだけってことか?」

秋山は吐き捨てるように笑う。
秋山「ハッ!
 無理無理! 俺の人生だぞ?
 冴えない男の人生を遡って何が面白いんだよ
 せめて顔がイケメンとかだったら
 ハーレムとか作ってただろうけどな……」

秋山「――いや、待てよ」

秋山は考えるように顎に指を当てる。
そして薄ら笑いする。

秋山「そうか! その手があったか!
 マスター! ゲームをやらせてくれ!」

マスター「では3番のお部屋に」

 マスターは笑みを浮かべて、3番の部屋を指す。
 秋山は意気揚々と部屋に向かう。

秋山(そうだそうだ!
 なんで思いつかなかったんだ!
 これはあくまでゲームだ
 現実ではあり得ないことだってできる!)

秋山はニヤニヤしながら部屋にあるモニターでゲームの設定をする。
秋山(中学の時に戻って香奈ちゃんと付き合おう!
 前にゲームで話した時仲良く話せたんだ!
 きっとうまくいく。
 一週間くらいだったらセックスまでできるはずだ!)

秋山は興奮したように椅子に座って、ゲーム内に入ってく。

10
学校の校舎裏。

香奈「ごめんなさい。彼氏がいるの」

秋山「……は?」

 頭を下げる香奈と呆然と立ち尽くす秋山がそこにいた。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?