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ゆる漫画レビュー:第2回『るなしい』

オススメのマンガを、ゆる〜く紹介していく「ゆる漫画レビュー」の第2回目は、『るなしい』(意志強ナツ子)。
講談社の「小説現代」で連載中のマンガです。マンガの掲載媒体としては異色な感じがしますね。「週刊文春エンタ+」(文藝春秋)の「週刊文春エンタマンガ賞!」で2022年上半期の最高賞に選ばれた作品です。

『るなしい』意志強ナツ子(講談社)

女子高生の郷田るなは、祖母が経営する鍼灸院で暮らしています。その鍼灸院は「火神かじんの医学」という看板を掲げており、治療のかたわら「自己実現」を売る信者ビジネスを展開しています。るなは、そこの信者さんたちから「火神の子」と、あがめられていました。

しかし、学校では「宗教の人」と陰口を叩かれ、いじめられています。たとえばプールの授業が終わると、いつも黒板にパンツが貼り付けられているとか。あるとき、クラスの人気者・ケンショー君に助けられたことをきっかけに、るなはケンショー君に淡い恋心を抱いてしまいます。
「火神の子」に恋は許されません。というのも、るなは「一生処女でいることと引き換えに」火神様から力を授かり、神の子をやっているからです。
その気もないのに優しくしてきて、心をもてあそばれた……と感じたるなは、ケンショー君を信者ビジネスに取り込もうとします。

というのが第1巻までのあらすじ。
現在最新の第3巻では、高校を卒業して数年経ったあとの状況が描かれており、るながケンショーと再会を果たします。そのなかで、「火神の医学」の実態が、少しずつ明らかにされていきます。

この物語を読んでいて気になるのは、「火神の力」が実際に存在するのだろうか、という点でしょう。
本来、マンガは何をやってもいいのだから、神様が出てこようが、超能力が出てこようが一向に構わないはずなんだけれど、読者は知らず知らずのうちに、その作品のリアリティレベルというものを意識しています。
だから、その作品の世界観にマッチしていないものが出てくると、「そんなのありえない!」と拒絶反応を示してしまうものなんですよね。
この『るなしい』に関しては、「火神の力」という超自然的な力が存在する世界なんだろうな、と最初は思い込みます。

ところが、るな自身は「信者ビジネスをやっている」と公言します。自分がやっていることにはタネも仕掛けもあるよ、“ビジネス”だよ、と。それも、鍼灸院に来た信者さんの目の前で言ってのけるんですよね。
じゃあ、鍼とか灸とか、実際に効果のあるものを、宗教的な雰囲気で粉飾して高額を支払わせているんだな、それが信者ビジネスなんだな……と読者は見破ったつもりになるんだけど、その一方で、「火神の力」の実在性を作中では決して否定していません。
ろうそくの炎は勝手に揺れるし、火神様の教えに背けば不幸が降りかかる。でもそれって、誰かが協力してたり、偶然だったりするんじゃないの?
というか、ろうそくの火を使った演出、怖っ!

「火神の力」はあるのか、ないのか。
このへんの虚実を見極めるのが本当に難しい。
オカルトビジネスに客を呼び込むための「見せ技」とか「手口」をオープンにして、奇跡は演出されたものであるかのように見せかけておき、その実、神秘体験や超自然的な能力が作中では実在する、という演出方法は、この作者の過去作『アマゾネス・キス』でもやっていますが、本作ではその手際がものすごくスムーズに物語に落とし込まれていますね。

安倍元首相の殺害事件以降、いわゆる「宗教ビジネス」が注目を集めている昨今。
なんであんなものにハマるの?
自分だったら絶対に騙されない。
みんなそう思うんだけど、90年代の新新宗教ブームのときにも、陰謀論が蔓延している現在も、高学歴だろうが資産家だろうが、ハマッてしまう人はハマってしまう。それは、人は「信じたいものを信じる」から。
「信じたい」と思わせるまでの手練手管、るなが見せてくれますよ。

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