こころの行方#02

その話を半信半疑で聞いて
ほどなく本当に現れた。
僕の元に。
この人の心を知りたい。
この人の心が欲しい。
僕だけを想って欲しい。

僕のことを好いてくれるわけがない。
もし、万が一そんなことがあっても
僕のことだ。
愛想を尽かされて
すぐに終わりがやってくるだろう。

僕は気がつくと車に乗り
あの店へと向かった。
そう心を渡して心が手に入る店だ。

まるで悪魔との契約だ。
自分の心を対価として心を射止める。

店に着くなり、車の中で
本当にいいのか、これは正しいのか。
でも正しいことが正義だと
教わった幼少があっても
世の中にでたら、正しいことをしてる
やつのほうが圧倒的に少ない。
立場や権利やお金や人脈。
挙げたらきりがないほどのなにかを
使ってうまく人を騙して
グレーゾーンで何かを手にしてる。
だったら
自分の心の代わりに
人の心を得る。
そんなやつらに比べたらよっぽど
ホワイトなことだとおもった。

店に入り、僕の顔を見るなり
店主は言った。
「心が欲しくなったか?」
「はい。どうしても。
詳しく話を聞かせてもらえますか?」
店主は話を続けた。
「心を得られる代わりに失うのは
あんたの残りの寿命の半分だ。
そして、あんたの残された時間は
8年しかない。
半分になるから4年だ。
残りの寿命は4年になる。
それでもいいか?」

僕は残り8年しかなかったのか。
とそこまで驚きはしなかった。
そんなに長く生きたくもなかったから
ずっといつ死んでもいいとおもっていた。
そして彼女の心を射止められずに
残り8年生きたところで
僕に待ってるのは絶望だけだ。
だったら幸せなその半分の時間を
生きたほうがいいに決まってる。
そうおもった。

「お願いします。」
僕は店主にそう告げた。
いったいなにがどんな仕組みで
そんなことができるのか。
普通ならそういうことを聞いたりもするんだろう。

でも僕はあえて聞かなかった。
どうでもよかったわけではない。
ただ店主が嘘やジョークで
そんな話をここまでするような人では
ないとそれまでの僕らの関係性や
話し方、表情から伝わってきたからだ。

「よし。いいぞ。
おまえがどう転んでも
彼女の心はおまえのものだ。」
奥に行って戻ってきたので
その間なにがをしたのか知らないが
どうやらそういうことらしい。

僕は会釈をして店を後にした。

僕の想い人の心がいまもう、僕のものに
なっている。
それはどう確かめたらいいのか。
考えもしてなかった。
電話で聞くのもどうかと思い
色々と考えたがメールにした。
【いま、なにしてる?】
たったこれだけ。これだけで
どうにか分かるものではないだろうけど
そこからなにか話が広がるとおもった。
程なくして携帯が鳴った。
【きみのこと考えてたよ。】
その文字を見たとき
心臓が全身に一気に血液を送ったのか
目眩がするほどくらくらした。
車のシートに座っているのに。

僕のことを考えているなんて
ただの友達であるならまずない。
僕に想いを寄せている。
僕はその時にたしかに成功したんだと
確信した。

残りの人生は四年になった。
さあ、これから四年、彼女と
どう過ごそう。

半信半疑でもあったため
なんの計画も立てていなかった。

頭の中のなかは
真っ白だった。
電車の窓からいつか眺めた
冬景色のように。

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