ファーストラブとキャンディータフト#12

それから一ヶ月としないうちに
彼女はもうある程度好きなように
ギターが鳴らせるようになっていた。
いつもの珈琲屋に僕らはいた。
「あのね、なんかメロディーが降ってくる時があるんだけど忘れちゃったり、たいしていいメロディーでもないなあとか思ったり。難しいね曲作りって。ちひろどうやって作ってる?」


「僕は歌詞と同時に歌詞にメロディーもついてるからそれにギター当ててく感じ。」
「そっか、自然に降りてくるのを待ってるって感じ?」
「待ってるってわけでもなくて、ただ降ってくるからとりあえず録ってるっていうだけで。」
「作ろうとして作ってるわけじゃないんだね。」
「そうだね。そうなるね。」
なるほどと言いながら彼女はうーんと言ったり難しそうな顔をしていた。
「ファーストラブってすごいよね。」
唐突に彼女は言った。
「どんなところが?たしかに名曲だけど。」
「タバコのフレーバーがしたってすごくない?」
「最後のキスがしたらしいね。」
「だってその曲書いた時あの人、私達より歳下なんだよ?そんな印象的な歌詞書けるってすごいと思うの。」
「確かに。それは僕も思ってた。苦くて切ない香りって。」
「最後って感じがすごくした。メロウバラードでいいメロディで。何回とかってレベルじゃないな。聴いた回数。」
何も言わず無言で頷いた。
「これは僕の一個人としての曲作りへのアプローチの方法みたいなものだから、参考程度に聞いて欲しいんだけど。」
「うん、なに?」
「歌詞から作るパターン。歌メロから作るパターン。そしてオケ、コードとかから作っていくパターン。言い出したらキリないけど、大きく分けてこの三つに分類されると思う。多分僕みたいに同時に全部一気に流れてくるってのはちょっとレアというか稀というかそんな気もする。結局、組み合わせというか順番みたいなのも自由なんだけど。」
「なるほど!参考になります!先生!」
「バカにしてる?」
「いや、そんなつもりはすこしあります。」
「話さなきゃよかった。」
と落胆している感じを装う僕をみて
少し慌てた様子で彼女は訂正した。
「いやすごいなって感心というか憧れ?リスペクトみたいな感情が生まれて、気恥ずかしくなってバカにしてる?の問いに対してふざけてしまいました。ごめんなさい。」
「実は僕もそこまで落ち込んでない。たかだか数年の音楽歴で感じ取ったものを教えただけだから。」
「私は音楽歴とか関係ないと思うな。」
そうかなと僕は返した。
「いい曲といろんな人が感じる曲が実はその人が一番最初に作った曲だったりってそんな珍しくなくてよくあることだとおもうし。」
たしかに、と思ってしまうほどそれにはなんだか妙な説得力があった。
「初恋ってさ、きっと小さい頃とかに好きになった人のことじゃないと思うんだよね。
ただそれはその人がお気に入りみたいな感じなんだと思うの。本当の初恋って離れてる時になにしてるかなとかコンビニとか行くとその人はこれきっと好きだろうなとか気がつくとその人のことばかり考えて、みたいな。うまく言葉にできないんだけど。」
「うん。わかる。シンプルかもしれないけど夢中ってやつかな。それまで他の誰かと恋愛みたいなことをしてきても、別れ話がその人と何回あっても、どうしても求めてしまう。そんな相手が初恋なのかもしれないね。」
「ちひろ、そこはなのかも、じゃなくて
きっとそう、って言うかマスト!」
とニヤついた顔で彼女は言った。
その顔を見て思わず僕もなんだか
心が綻んだ。
「そう言えばタイミング失っててずっと
聞けずにいたけどこの喫茶店って
なんていう名前なの?」
「んーー知りたい?どうしてもっていうなら教えないこともないよ?」
「どうしてもってわけじゃないけど知りたいな。」
「そこはどうしてもってことにしてよ!」
ここは素直にそうしておかないと、と思い
どうしてもですと僕は答えた。
「キャンディータフト。」
「ほう、なんか甘くて心地よい語感だね。」
「うん。私も思ってた。」
「いつも僕らの貸切状態だよね、ほとんど。」
「私だけで通ってた時もそんな感じ。マスターのひとつの趣味的な感じでやってるのかなと思ってる。」
「うん、でも僕はここは好きだな。名前聞いてもっと好きになった。」
教えてくれてありがとうと付け足した。

この場所、キャンディータフトにも
ありがとうと言いたい。

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