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3分でわかる日米衛星調達合意・WTO政府調達協定

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ものづくりの隆盛が行き着いた先

「ものづくり」は、かつての日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われる所以となった産業です。1960年代から80年代、日本製の自動車や家電製品などが世界を圧倒しました。

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出典:ものづくり基盤技術の現状と課題 経済産業省

他方、安価で高品質な日本製品が流入してきたアメリカでは、国内製品が売れず、メーカーの倒産や失業などの問題が生じるようになりました。アメリカ国内では日本バッシングが起きるようになり、日本・アメリカ間に軋轢が生じるようになりました。いわゆる日米貿易摩擦です。

そこでアメリカは、貿易国の不公正な取引慣行に対する報復措置を取りやすくする「スーパー301条」(1974年通商法310条)を制定しました。
スーパー301号は、米通商代表部(USTR)が不公正な取引慣行のある国と輸入障壁に関する交渉を行い、改善がみられない場合には関税引上げなどの報復措置を取ることができるという強力なものです。

日米衛星調達合意

1980年代、日本は国産通信衛星の製造を進めていましたが、いよいよ人工衛星調達市場もスーパー301条の対象(交渉国認定)となってしまいます。
アメリカとの交渉の結果、報復措置こそ免れたものの、最終的にとある書面を取り交わすことになりました。これが日米衛星調達合意です。
※日米衛星調達合意が「合意」かどうかは争いあり。

日米衛星調達合意は、日本政府の非研究衛星の調達手続を定めたものです。日本政府(政府監督下にある機関含む)による衛星の調達は、研究開発・安全保障衛星を除いて国際競争入札とされました。

適用が除外されている「研究開発衛星」は以下のように定義されています。

専ら又は概ね、おのおのの国にとり新たな技術を宇宙において開発若しくは実証すること又は非商業的な科学的研究を行うことを目的として設計され、かつ、使用される人工衛星

この定義からわかるように、研究開発衛星といえるためには「新たな技術」の要件を満たす必要があります。
しかし、新たな技術を研究し、実装するとなるとコストがかかりますし、そもそも安価でサービスを安定供給することが求められる商用衛星にそのような最新技術が必要かも疑問です。

これにより、政府の衛星による技術実証の機会は当然減っていき、衛星市場における日本の競争力は弱体化します。
実際に、1990年以降、国際競争入札によって調達された衛星15機のうち、12機はアメリカの衛星メーカーが落札しています(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版p115)。
それに伴い、衛星を搭載するロケットの選定までも衛星メーカーに握られ、日本のロケット産業にも影響が及びました。

WTO政府調達協定

WTO(世界貿易機関:World Trade Organization)は、1995年に設立された国際機関です。貿易に関する様々なルールを定めるWTO協定(WTO設立協定及びその附属協定)の実施・運用を行っています。
1995年に締結されたWTO政府調達に関する協定(Agreement on Government Procurement: GPA)は、上記WTO協定の一つです。

WTO協定では、政府が行う調達に関し以下の原則による公平・透明な調達手続が定められています。

最恵国待遇原則
輸出入に伴う関税について、いずれかの国の産品に適用される最も有利な待遇を他の全ての加盟国の同種の産品について、即時・無条件に与えなければならないというルール。

内国民待遇原則

輸入品に適用される税金や法律は、同種の国内産品に適用されるものより不利ではない待遇としなければならないというルール。

数量制限の廃止
加盟国は、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止・制限も設けてはならないというルール。

これは、国際貿易に市場経済原理を機能させることで、世界経済の発展を図ることを目的とするものです。

WTO協定の適用範囲には、「モノ」のほかに「サービス」の調達まで含まれます。GPAを前提に衛星を調達しようとすると、プロトタイプの開発については限定入札ができるものの、ビジネスを行おうとすると公開入札となります。

両者の関係

両者は矛盾するものではなく、いずれも日本を拘束するものです。日米衛星調達合意は政府による衛星の調達を対象とし、あらゆる「モノ」、「サービス」が適用範囲となるWTO協定に含まれている関係となります。

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上記のとおり、同じ分野(衛星調達分野)に規制が複数ある状態は望ましくなく、権利義務関係を可能な限り統一的に整理すべきという見解もあります。

まとめ

ルールは技術の後追いといわれることがありますが、日米衛星調達合意は逆にルールが技術に影響を与えた例ともいえそうです。
かつての「ものづくり」は、他国に取って代わられてしまったかもしれません。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を取り戻すには、「他国が作ったルールの上でゲームしなければならない環境」からいかに脱するか、いかにルール作りに関わっていけるかが重要ですね。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・外務省ウェブサイト「国際的ルール作りと政策協調の推進」
・ものづくり基盤技術の現状と課題 経済産業省

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