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量子関係の補正予算案をざっくりまとめてみた(2023年版)

5月以来の久しぶりの投稿です。

noteのプロフィールやXではお知らせしていましたが、6月に文部科学省を退職し、量子の仕事から離れ、現在は民間企業で働いています。

新しい職場は現時点では量子と関わりはありませんが、将来的には何らかの関わりが持てたら良いなと夢見ています。

今後も本noteでは量子の話題をボチボチと取り上げていく予定です!

特に量子技術政策については若干マニアックな内容にはなりますが、私の記録の観点もあり、本noteで適宜扱っていきます。

ということで、今回は、タイトルのとおり11/10に閣議決定された補正予算案のうち、量子関係のものをピックアップしてご紹介していきます(かなり玄人向けの記事です笑)

全体のまとめ

全体感を知りたい、という方はこの章だけ読めばOKです。

ポイントは産総研とムーンショットに数百億円規模の予算措置がされていそうですね、ということです。

  • 量子関係の補正予算案額は約700億円規模(※)

  • 経産省が産総研に2年連続で大型の予算措置(2023年:300億円、2022年:452億円)

  • ムーンショット型研究開発制度の基金積み増し(おそらく数百億円規模)

※ 経産省、総務省、文科省の補正予算案額の資料を見て、筆者が適当に見積もった金額。正確性は全く保証しません。

ちなみに、昨年の補正予算案のまとめ記事は👇にまとめています。

省庁別予算案の概要

経済産業省(予算案額 300億円)

まずは、経産省からです。
こちらのページのPDFのP.8に以下の文があります。

⑤ 量子・古典融合技術の産業化支援機能強化事業【300 億円】
「量子未来産業創出戦略」に新たに記載された内容を進めるために、「量 子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)」の機能 強化を実施し、量子技術の産業化・実用化の加速を推進する。

「経済産業省関係令和5年度補正予算案の概要」のP.8より抜粋

G-QuATというのは、産業技術総合研究所(産総研)に設置された量子技術イノベーション拠点のことです。

産総研は国内11個の量子技術イノベーション拠点(量子拠点)のひとつに指定されていて、「量子未来社会ビジョン」(2022年4月策定)で、量子技術の産業化のために、産業界を支援していく機能の強化が打ち出されました。

そして、上記引用文中にもありますが、ビジョンに続く「量子未来産業創出戦略」(2023年4月策定)でも同様の強化策が打ち出されています。

なお、政府戦略については、👇を参照ください。また、私の過去の note 記事でも取り上げています。

実際に、昨年度の補正でも452億円が措置されていて、今回と合わせて752億円になります(※)。これらは主に、設備や人員などの体制整備面に充てられると推測しています。
※ 昨年度の452億円は全て量子関係ではないので、正確には内数になります。

また、研究費はというと、文科省のQ-LEAP事業やムーンショットに加え、今年から始まった内閣府のSIP事業(第3期)でも研究開発機関として参画しています。(SIPについては、12/12に公開シンポジウムがハイブリッド形式で行われるようです。)

ということで、昨年度から一気に産総研への投資が加速しています。これら潤沢な資金を使って、名実ともに日本の量子技術の産業化を支える存在となってほしいところです。

肝心の取組の中身はというと、構想は9/21の「量子技術イノベーション会議」での講演資料にあります。

第16回 量子技術イノベーション会議 資料2-3より抜粋

まだ大きな動きは無いように見えますが、11/14には、拠点のオープニングシンポジウムもあるようです。今後に期待しましょう!

文部科学省(予算案額 数百億円規模)

続いて文科省です。
文科省は毎年ポンチ絵で予算資料を公開しているので、そちらを見ていきます。

項目が多いですが、量子関係を整理すると以下になります。

  • P.20 ムーンショット型研究開発制度(目標6)

  • P.22 未来科学館の新規常設展示

  • P.29, 31 理化学研究所・量子科学技術研究開発機構(QST)の施設設備整備

ムーンショット型研究開発制度(目標6):

2019年からスタートしている研究開発事業です。テーマが複数あり、量子は目標6「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」となっています。

ちなみに、2年前の補正でも積み増されています(ちなみに当時の報道では360億円と出ていました)。

令和5年度文部科学省補正予算(案)事業別資料集 P.20より抜粋(左下)

今回の分は、「早期社会実装のため」の「業界団体との調整」及び「個社の巻き込みも加速」となっており、産業界の参画を促すという名目で予算措置されたものと考えています。
(実態は単に基金の積み増しかと想像していますが、違ったらすみません。)

額も明示されていませんが、核融合やアバターと合わせて全体で1,500億円で、報道では核融合が「数百億円」と報じられていますね。

全く根拠はありませんが、核融合を多めに見積もって1,000億円を引き算しても、量子には200〜300億くらいはついているのではないかと推測しています

2023年は、理研・富士通・阪大が国産量子コンピュータを公開しました(これについては、また本noteでも取り上げたいと思います)。

ムーンショットからの国産量子コンピュータの公開にも期待したいですね!

未来科学館の新規常設展示:

こちらは、研究開発ではありませんが、個人的に期待大なのでピックアップしました。
未来館では「Miraikanビジョン2030」に基づいて色々とリニューアルを進めており、この新規展示もその一環となっています。

令和5年度文部科学省補正予算(案)事業別資料集 P.22より抜粋(左下)

量子コンピュータの挿絵がありますが、どんな展示になるか完成が待ち遠しいです!完成したら子供連れて遊びに行きたいです。

予算は未来館全体で10億ですから、量子の展示製作費は数億円といったところかと思います。

理化学研究所・量子科学技術研究開発機構(QST)の施設設備整備:

こちらは、例年の法人の施設設備整備費かと思います。あまり解説することはありません。

理研は建物と量子コンピュータの制御装置、QSTは量子機能創製研究センターの建物と設備が量子関係ですね。

量子関係だけの正確な金額が分かりませんが、大体30〜40億くらいと思います。

総務省(予算案額 19.5億円)

最後に総務省です。
こちらのサイトのPDFのP.2に以下の文があります。

(6) グローバル量子暗号通信網構築のための研究開発
 量子コンピュータ時代においても国内重要機関間の機密情報の安全なやりとりを可能とするため、量子暗号通信網の実現に向けた研究開発や実証等を実施。

令和5年度総務省所管補正予算(案)の概要 P.2より抜粋

これは正直、情報が少なくよくわかりません…
おそらく、総務省がこれまで進めてきた量子暗号通信技術の研究開発事業で設備か何か買うんだと思います。

おわりに

以上、補正予算案をざっくりまとめてみました。

生成AIブームで量子分野に一気に冬が訪れることを危惧しましたが、それなりに措置されていて安心しました。

そして、資料を見ていて、予算編成は例年やってくるお祭りのようなものだなと改めて思いました。

従来と内容がほとんど変わってないのに、見せ方を変えて大型の予算を獲得しているように見える事業もあり、なんとも言えない気持ちです。

去年は量子、今年は生成AI、、来年はどうなるでしょうね。

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