彼の王国

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最近、一冊の写真集を買った。
病院の待合室で暇を持て余し、たまたま手に取った雑誌に、作家いしいしんじの薦める一冊として紹介されていたもの。

「HENRY DARGER'S ROOM 851 WEBSTER」

ヘンリーダーガーの部屋。

シカゴにあったアパートの一室を撮ったこの写真集は、アウトサイダーアートの第一人者である彼の、60年間の、執着、願望、怒りや羨み、そしてわずかな希望とよろこびが、確かに写し出されている。

若くして身よりもなく、孤独な人生を余儀なくされたダーガーは、昼は、皿洗い、清掃夫として少ない賃金で働きながら、夜はアパートの自室で1万5000ページにわたる小説を、ひそかにタイプで書き続け、誰に見せる訳でもないのに、数百枚の挿絵を添え製本をおこない、1973年に81才で生涯を閉じた。

簡単にまとめてしまえば、ただそれだけのことである。

この写真集を眺め終えた自分の感想は、彼の編んだ長編小説「非現実の王国で」という作品の、芸術的、文学的価値は正直よくわからないな、というものだった。

だけど、彼の世俗的でない生き方や、自分の好きなことを続ける気高さは、強く、自分を引きつけてやまなかった。

かつて、ゲーテは言った。

「ひそかに清く、自己を保持せよ」

まわりの価値観に振り回されることなく、「自分」を部屋の中で「完成」させようとしたダーガーは、幸せだったのだろうか。執着の先に、かすかな希望は見えたのだろうか、本当に。

ただ、言えることは、

挿絵のための膨大な数の資料の束(ほとんどがゴミ置き場から拾ってきた雑誌)や、水彩画用の顔料が所狭しと並べられている部屋は、現実世界に背を向けた彼が、まごうことなき彼の「現実」を生きた、まぎれもない証しであるということ。

この写真集と併せて美術手帖の、ヘンリーダーガー特集を一読することをお薦めしたい。年譜もよく出来ており、各関係者のコメントは、愛ややさしさ、暖かい眼差しが感じられるものとなっている。

仕事が終わって、眠い疲れた、そんなことをつい簡単に言ってしまう人たちへ。

目からうろこかも、の1冊です。

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