見出し画像

『野菜大王』と『文具大王』第2章・文具大王に摑まった少年

文具大王につかまった少年

第1章大王の使者あらすじ
康太はピーマンが嫌いでいつも人の目を盗んでは捨てていた。そんなある日の夜不気味な音楽と共にピーマンの化け物の連帯が「野菜大王」と連呼し康太は囚われの身になってしまう。地球から遠く離れた大王の星の牢獄で康太はひとりぼっちで泣いていた。

文具大王につかまった少年 
康太は独りぼっちの不安と恐怖でどのくらいの時間泣いていたか覚えていなかった。ただ、声も涙もかれるくらいの時間であった事は間違いなかった。「どうしてこんな事になってしまったのだろう」膝を抱えてひとり言を言いながら後悔する康太の耳に、トンネルの奥からまた不気味な声が聞こえてきた。
「文具大王!」ガジャ!
「文具大王!」ガジャ!
「文具大王!」ガジャ! 
その声はだんだん近づいて来て、牢獄が並ぶ入口でいったん止まった。
「お疲れ様です。変わります」
康太が鉄格子の中からのぞき込むと、そこには鉛筆の化け物の隊列が並んでいた。尖った芯の下にはピーマンや人参と同じような鋭い目と牙を持った口が恐ろしい。体は鉛筆なのに手足が付いていてやはり角棒を持っていた。
「今、牢屋はいっぱいです。ピーマンの牢がひとりしかおりませんのでそこへ収容して下さい」
鍵の束を鉛筆の化け物に渡しながらピーマンの化け物は言った。
「文具大王!」
鉛筆の化け物がピーマンの化け物から鍵の束を受け取って、隊列が康太のいる牢屋にやって来た。
「相部屋だ!」
鉛筆の化け物はそう言いながらひとりの少年を康太の牢獄に押し込んだ。少年は康太と同じ年くらいで、肌は日に焼けしたように薄黒く、やせ細っていた。やはり怖いのであろう。少年は牢の隅まで行くと、膝を抱え震えて泣き始めた。涙がかれるまで泣いた康太には少年の気持ちが良く分かった。
「ねえ。大丈夫?」
「……」
康太は出来るだけ優しく声を掛けたが、少年は下を向いて膝を抱えて泣きながら頭を振った。
「僕の名前は山村康太。日本からここに連れてこられたの」
康太は少年に『ひとりじゃないよ』と伝えたかったのだ。
「日本人なの?」
少年は康太の言葉に初めて反応した。
「あっ! 君は」
顔を上げた少年の顔に康太は見覚えがあった。それは、ママが店に貼ったポスターに載っていた少年だったのである。
「僕の名前は、サロット・ネロ。カンボジアからここへ連れてこられたの」康太はカンボジアで使われているクメール語を全くしらない。しかし、この世界ではなぜか言葉が通じ合った。
「ネロはどうして鉛筆の化け物につかまったの?」
「僕は悪い事をしたから罰を受けても仕方がないんだ」
「悪い事って?」
「万引き」
「盗んで見つかってしまったの?」
「店の人には見つからなかった。鉛筆一本だからね。直ぐにポケットに隠して店を出たら一目散に走った」
「鉛筆一本だけ?」
康太はびっくりして言った。
「僕の国は貧乏な国だったの。日本の人達のお陰で学校を建ててもらって、子供たちは学校に通う事が出来るようになったけれど、都市部と僕が住んでいる農村部ではまだまだ貧富の差があって、僕の家は貧乏だから僕は父さんの手伝いであまり学校には行かれないの。せめて弟と妹には学校へ行かせたくて鉛筆を盗んでしまったの」
ネロの目にまた涙が溜まってきた。
「あまりってどのくらい行くの?」
「週に一度くらいかな」
「良いな」
康太の怠け心が呟いた。
「日本の子供たちの方が良いと思うし羨ましいよ。毎日学校で勉強が出来て、ノートや鉛筆だって沢山持っているでしょう」
「鉛筆が一本万引きしてもふたりには行き渡らないでしょ」
「半分に切るんだ」
「まさか?」
「本当だよ。そうすれば二人で使える」
「カンボジアはそんなに貧乏なんだ」
「僕たちは、日本の人達にすごく感謝しているよ。生活が安定している都市部より貧困にあえぐ農村部を優先してノートや鉛筆を送ってくれるし、時々、夜の映画会なんかをやってくれる。本当にありがとう。でもまだまだ足りないんだ」
ネロにお礼を言われて、康太は困ってしまった。
「康太君はどうしてここへ連れてこられたの」
「ネロの話を聞いたら僕がここに連れてこられた理由なんて恥ずかしくて言えないよ」
康太の本当の気持ちだった。
                               つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?