見出し画像

『野菜大王』と『文具大王』第6章・別れの時

別れの時

 翌日、康太たちが目を覚ますとベッドの横に綺麗に洗濯された作業着と茶色い紙袋に入ったピーマンが置いてあった。
「ふたりとも目が覚めたかな」たれ目のパプリカーンが部屋にやってきた。
「師匠、作業着を洗って下さったのですか?」ネロが聞いた。パプリカーンは頷きながら言った。
「別れの時が来た! 大王様がお呼びである。その服とピーマンは記念に持って帰るが良い」
「師匠!」ふたりは泣いていた。家に帰れるのは嬉しいのだが、この涙はそれでは無い。ただ無性に師匠との別れが辛かったのだ。

 かぼちゃの飛行船はゆっくりと荒野に着陸した。トンネルを抜けて牢屋を右に見て、またトンネルを抜ける。広く明るい部屋の少し高い位置に野菜大王が座っていた。
「山村康太! 農家の方々の苦労が分かったと報告を受けておるが誠か?」
「大変な思いと手間をかけて、野菜を育てている事が良く分かりました」野菜大王の問いに康太は素直に答えた。
「ならば罪を解く。家に戻るが良い」
「サロット・ネロ! 文具大王に変わり物申す。君の国は過去に犯した戦争と言う無意味な歴史の為に、未だに貧困にあえいでいる地区もあろう。しかし、泥棒は罪じゃ! 物を粗末にする事も人としてしてはいけない事じゃ。二度とするな。自分なりの金科玉条を考えるのも勉強じゃぞ」
「二度としません」ネロは誓った。
「武力で世の中を変える事は絶対に出来ない。世の中を変える武器は『おもいやり』だけじゃ!その事をネロなら分かっているな?」ネロは頷いた。「康太も今私の言った言葉を覚えておくが良い。いずれの日にか、役に立つ時がくる」やはり康太には、野菜大王の言葉の意味をこの時は理解することは出来なかった。
「ふたりを家に戻しなさい!」野菜大王はジャジャに指示をした。
「野菜大王!」ピーマンの化け物が立ちあがった時。
「ねえ、金科玉条ってどんな意味?」康太はネロの耳元で囁いた。
「人が絶対的に守らなければいけない法律やルールの事」ネロがそっと教えてくれた。

ふたりを連れて行こうとするジャジャに野菜大王は言った。
「そうじゃ! ふたりを送り届ける前に、それぞれの住む街を見せてあげなさい」野菜大王は指示を変え「帰りは大根でなく筆箱を使うと良い。文具大王には私が了解を取る」
「野菜大王!」返事をしたピーマンの化け物に変わって、鉛筆の化け物が迎えに来た。ふたりは鉛筆の化け物に案内されるまま、今まで通ってきたトンネルの道とは反対方向に向かって歩いた。
「ここでしばらく待ちなさい」鉛筆の化け物が言った。そこは地下鉄のプラットホームのような場所だった。ふたりが言われるままに待っているとどこからともなくアナウンスが聞こえてきた。
「日本とカンボジア行き臨時特急が参ります。白線の内側に下がってお待ちください」ふたりは足元の点字ブロックを見て少し下がると、パホーと言う音と共に筆箱のような電車が二両編成でホームに入ってきた。
「帰りは電車か」康太が言うと「これが電車なの? 僕は電車に乗るのは初めてだよ」ネロは嬉しそうだった。

この記事が参加している募集

スキしてみて

SF小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?