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『野菜大王』と『文具大王』第7章・さよならネロ

前章までのあらすじ
食べ物を粗末に扱い不思議に星に囚われてきた康太はカンボジアの少年ネロと知り合う。ファームでピーマンを育てながら二人の友情が深まった時別れの時がやって来た。

さよならネロ


 プシュ―という音と共にドアが上に向かって開いた。それはまるで康太が普段使っている筆箱その物が大きくなり、窓が付いているようであった。
「康太は一両目に、ネロは二両目に乗車しなさい」鉛筆の化け物が指示をした。言われるままに康太とネロはそれぞれの車両に乗り込んだが、車内は自由に行き来出来る不思議な空間になっていた。
「臨時特急、発車いたします」
車内アナウンスと共に電車はゆっくりドアを下げた。そして、臨時特急は地下から地上へと続くレールを徐々にスピードを上げながら走り出した。地上に出るとそのレールは空へと続き、やがて消えた。
「先ずは日本に向かいます」
車内アナウンスが聞こえた。筆箱臨時特急は更にスピードを上げると、宇宙に飛んだ。光のトンネルを抜ける。丸い地球がどんどん大きくなって、龍の形をした日本が大きくなって、スピードを落とすと日本の空をゆっくりと飛んだ。
「綺麗な山だ!」
ネロは初めて見る日本に興奮していた。
「あれが富士山だよ」
康太は自慢げに言った。特急は猛スピードで進みだし東京の空でスピードを落とした。
「あれは何?」
「スカイツリー、六三四メートルもあるんだ」
「凄い僕も昇ってみたいよ」
やがて特急は康太の住む街にやってきた。
「あれが僕の通う小学校だよ」
康太は指で示しながらネロに説明した。
「あれは何?」
ネロが聞いたのは大きな観覧車だった。
「遊園地の観覧車だよ」
「凄いね。一度で良いから遊園地に行ってみたいな」
ネロの興奮は止まらない。
「この下の店が僕の家、レストランをやっているの。お父さんが作るオムライスは最高だよ」
筆箱特急の真下には康太の家があった。
「大きくなって日本に来る事が出来たら、必ず康太のお父さんのオムライス食べに行くね」
「デミグラスソースが抜群だよ。絶対に来てね」
ふたりは小指を絡ませた。
「次はカンボジア、カンボジア」
車内アナウンスが告げる。
「ふたりもいよいよ別れの時だ」
鉛筆の化け物が言うと、筆箱特急は一度上昇し、海の上を飛びカンボジアへと向かった。そして一気に下降するとそこはネロの母国だった。
「これが僕の国の自慢。アンコールワットの遺跡群」
ネロが自慢げだが俯き加減の発言だ。なぜならネロ自身が都市部を見た事が無いのだ。
「僕も初めて見るのだけれど、ここが首都プノンペン。都市部は随分裕福でしょう」
康太には、この首都を説明するネロが何故か寂しそうに見えた。特急は移動を続けた。辺りは山と森が目立つようになってきた。
「康太! あそこに見える木造の建物が僕の通う学校」
ネロは懐かしそうに指差した。そこから十キロメートル以上、筆箱特急は飛び続けた。
「あった。あれが僕の家だよ」
ネロが指さしたのは畑とビニールハウスに囲まれた小さな家だった。
「あれって! ネロ、学校から随分離れているよね?」
康太はネロを見つめた。
「十キロくらいかな」
ネロが答えた時
「十二.二キロでございます」
筆箱特急の運転手がアナウンスした。毎日通う学校が家から十二キロ以上離れている事に康太は衝撃を受けていた。
「歩いて通っているんだよね?」
「そうだよ、農作業の手伝いがない日だけ、だけれどね」
ネロは普通の笑顔だった。特急は下降を始め、ネロの家の庭に着陸した。
「車両を切り離す一旦下車しなさい」
そう言われて康太も初めてカンボジアの大地に立った。
「家の畑だ! 康太見て行って」
ネロが懐かしそうに言った。ネロに案内されたビニールハウスは康太にとって懐かしい臭いがしていた。
「さあ! いよいよふたりにも別れの時が来た」
鉛筆の化け物が言った。康太が日本行きの筆箱特急に乗車した瞬間、康太の前からネロの姿とカンボジア行きの筆箱特急が消えていった。あたりが暗くなり康太自身も意識を失っていた。
                               つづく


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