「今度の19日、超豪華メニューでお願い」 (井原西鶴・万文反古の翻案)
※伊原西鶴の「万文反古」は、主人公が、貧乏人が大事に集めたクズの山から手紙を見つけてそれを読み、世情を思うという日本の17世紀の書簡体小説です。岩波の新体系から翻案しています。
こんな手紙。
「昨日はご丁寧にも二度も連絡をもらいましたのに、北野不動に行っておりまして、返事が遅くなりました。
さて、今度の17、18、19日、この3日間のうちで川舟での食事をしたいとのことで、他の用のついでに会長に言いました。会長は17日は堺で茶席の先約があり、18日は生玉神社で観音講があり、19日も午前中は用事があるので、その後なら舟での夕涼みに行くと言っております。19日は今月で唯一の空き日なので、そちらが都合を合わせてください。
会長と同行するのはマッサージ師の利庵、鍼灸師の自休、ミュージシャン(笛)の勘太夫です。もしかしたら警備人代わりの左太兵衛を連れて行くかもしれません。その他、身の回りの世話をする小坊主2人が行くくらいです。
そちらから囲碁名人の道円がくるということですが、長話は決してしないように言い含めておいてください。
キレイ目の若いボーイズは、初めは乗せておかなくていいです。会長の機嫌を見て、会長の言うに従いましょう。
気合いの入ったメニューを見せてくださいましたが、川遊びにはやりすぎです。道具立もうるさい感じです。会長も今回は病後ですので、美食は好みません。意味ないです。
メインの汁物に小魚をたくさん使っていて、良いです。竹輪とカワフグは不要です。やりすぎ。膳を出す前の鮎の鱠はダメ、川魚を続けて出してください。全員に椙焼きを出してください。これも鯛と青サギの二種類にして、煮て冷ました真竹を出すくらいがセンスがいいところです。割いたエビと青豆の和え物、お吸い物、鱸の雲ワタ、鯛の尾頭付き、小鯵の塩煮、エボシ貝の田楽、そしてまたお吸い物、ツバメの巣にキンカンのお麩と続け、なんにせよ、味噌汁はやめてください。酒三献で膳を下げ、冷やし餅、またお吸い物、キス(鱚)の細造り、お酒、その後早鮨。蓼は食べません。山椒とはじかみは一緒に出して、その後に「日野まくほうり」に砂糖をかけて出し、お抹茶は菓子なしで一服ずつで終わりにしてください。
せっかくですから、船上に湯船を用意して、夕暮れに入れるように用意して、まあ、それくらいでいいです。夜の方の仕込みは不要です。すでに会長は島原の遊女に19日は予約を入れています。日暮れから入り浸ります。
こちらとしては、教えて欲しいと言うので言っているまでですよ。
とにかくこの上は天気が良いといいですね。18日にはそちらに行きますので、その時また。
いつかちょうだいした加賀の単衣の羽織ですが、ちょっと丈が長いんです。着ると小男みたいで変な感じがしますんで、30センチくらい詰めてもらいたいです。そちらの手代をよこしてください。天満天神のフェスまでに仕立て直してくれればいいです。急ぎません。まあ、とにかく、会った時に。では。
長崎屋 八右衛門より
呉服屋 次左衛門様 」
こういう手紙を読むにつけ、町人てスゴイことしてんなあと思う。
日頃取引のある会社の会長を接待するって話だろう。この費用、少なめに見たって3百4,5拾貫目くらいかな。1年間、この呉服屋がこの会長に15貫目の呉服を売って1割の儲けとして、1貫500目。年に2度の接待か、あるいは五節句ごとにやったら、全部なくなる。今どきの商売はみんなこんなもんだろうが、思った通りの金儲けはなかなかできないね。
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