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【小説】紙城境介『シャーロック+アカデミーLogic.1』

【あらすじ】

増加する凶悪犯罪に対抗し、探偵という職業の必要性が飛躍的に高まった現代。
日本で唯一「国家探偵資格」を取得できる超難関校・真理峰探偵学園に今年、とある少年と少女が入学する。
一人はかつて〈犯罪王〉と称された男の孫・不実崎未咲。
もう一人は〈探偵王〉の養女・詩亜・E・ヘーゼルダイン。
宿敵同士の末裔二人が、ここに邂逅したのだ!
そして始まる学園の日々。早速入学式から模擬事件が発生!?
しかも、一番先に正解したはずの詩亜よりなぜか不実崎の方が点数が高くて──
「私は──あなたに挑戦します!」
「後悔すんなよ、お姫様」
これは、真実を競い合う新たな学園黙示録。最高峰の知的興奮がここにある!

紙城境介という作家を知ったのは一昨年の年の瀬のこと。

仕事が忙しく碌に本も読めない状況が続く中、年末に発売される本格ミステリベスト10くらいは確認しておこうとパラパラとページを捲っていた。

すると惜しくもベスト10入賞を逃した11位に紙城境介『僕が答える君の謎解き2 その肩を抱く覚悟』という文字が。

はて。
ナンバリングタイトルだし、コレがデビュー作ってわけでもないだろう。
いったい誰なんだ。

調べてみたらラノベ作家だった。
ラノベを読んでいたのは十数年前のことで、昨今のラノベ事情には疎い。
けど、ラノベが本格ミステリベスト10において11位に推されるなんて未だかつてなかったはず。

あまりにも気になって、すぐ買いに行って既刊2冊を読破した。
読んだ結果『僕が答える君の謎解き2』は大傑作であった。
ライトノベルであるにも関わらず、ガチガチにロジックを突き詰めて一点の曇りなく犯人を指摘する。
男女の甘酸っぱい青春模様こそラノベ臭さはあるものの、やっていること自体は本格ミステリそのもの。
もう少し作品の認知度が高ければ上位も狙えたのではないかという完成度だった。

そんな、ラノベ作家でありながらド本格を書ける著者の新シリーズが本作となる。

発売レーベルはMF文庫J。
いやはや、懐かしいね。
「ゼロ使」「変猫」「まよチキ」
僕の青春だったよ。

閑話休題。

またもやラノベレーベルからの出版だが、アレだけの傑作を書いた人。
なにかやってくれるのでは?と期待して本書を手に取ってみた。

うん、しっかりとキャッキャウフフのラノベなんだけど、それと同時にちゃんとロジックも愉しめる本格ミステリになってる。

予定調和のボーイミーツガール。
寮の面々は女の子ばかり。
クラスで浮いている主人公に何故か優しく接してくれるクラスメイトの女子。

いいじゃないの。
ラノベはこうでなくっちゃね。

そんな展開に鼻の下伸ばしていると、本格ミステリ愛好家が悦ぶような要素も顔を出す。

まず、寮の名前が”幻影寮”
泡坂妻夫や連城三紀彦などのレジェンドを輩出した有名雑誌”幻影城”の捩りだろう。

また中盤の章題”50円玉14枚の謎”
これは法月綸太郎らが参加し、無名時代の倉知淳も参加した有名な競作アンソロジー『50円玉20枚の謎』を意識してのもの。

そして、本書は伏線となる部分は全て太文字で書かれるという趣向が凝らされている。
伏線が全く伏してないのである。
どんな自信だよ、、、

このようにどちらの好事家であっても割と楽しめるように出来てる。
そのどちらも好きな変態には垂涎物の1冊だろう。

本書の目玉となる事件は一つ。
プール中央での殴殺事件。
正直、事件の構図に至っては当て推量で勘付いてしまったけど、太線の伏線を拾っていけばしっかりと真相に辿り着けるという構成は見事。

本格ミステリとしての完成度で言えば『僕が答える君の謎解き2』に軍配が上がるが、この先もこのシリーズを追わねばと思うくらい良質な1冊だった。

どうやら、次巻が8月に出るらしい。
すげーな、おい。

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