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【小説】天祢涼『彼女はひとり闇の中』

【あらすじ】
10月の日曜日の朝、横浜・日吉に住む千弦は昨夜近くの小道で女性が刺殺されたことを知る。しかもそれは昨夜「相談したいことがある」とのみLINEを送ってきた幼馴染の玲奈だった。相談は事件に関わるものだったのかーー悩んだ千弦は真相をさぐろうと決意する。未来と仲間の見えない時代に壮絶な孤独が引き起こした悲劇の結末とはーー。

【感想】
今年度の新刊を片っ端から読もうと決意して、本屋でまず手に取ったのがコレ。

著者の作品をすべて読んでいるわけでもないし、他に読みたい本もあったのだけど、ガチガチのパズラーばかり読んでいても疲れちゃうので、物語としても楽しめそうな本書を買ってみた。
それと日吉が舞台とのことで、前職の時仕事でよく練り歩いていたので、懐かしくなったのもある。

ブクログを辿ってみると、天祢涼の作品で最後に読んだ物は2017年の『希望が死んだ夜に』らしい。

当時の感想を引用してみる。

おそらく本書のような物語は好まれ、高評価を得るんだと思う。
そこに疑問はないし、僕自身もとてもよく出来た小説だと思う。
感情移入を避けられない巧みな筆致と、哀しくも温かい結末。

ただ、本格ミステリとして読んでみると、余りにも素直で、真相が透けて見えてしまうのが残念。

伏線がとても丁寧であるが故の事なので、作者のフェアに徹しようという姿勢は感じられ、本格ミステリを書く確かな力量はあるのだと思う。

本書『彼女はひとり闇の中』を読んだ感想と全く同じものとなってしまった。

ある程度本格ミステリを読み慣れていて、いろんなパターンを疑いながら読んでしまうタイプの読者であれば「あっ、、、コレはそういう感じのヤツか。ってことは種明かしの瞬間の一文はアレしかないな」と真相が明かされるシーンの文章まで目に浮かんでしまうと思う。
事実、予想通りの一文が炸裂したので、驚きは皆無で、むしろ安心してしまった。
前例は多数あるし、扱い方ももっと秀逸な作品もある。

ただ、仕掛け自体は看破できても、事件の全容まではそう簡単に分かるようには作られていない。

迂闊に内容に触れるとネタバレになってしまうパターンのミステリなので、詳しくは言えないけど、仕掛けが明かされた後《何が隠されていたのか?》《どのようにして隠されていたのか?》が解明されていくパートは読み応え抜群。
僕は解決編手前で何となく察しがついてしまったのだけど、それでも至る所に伏線が貼られていたと知り唸らされた。

先に引用した”フェアに徹しようという姿勢”は今作でも健在で、分かりやすさに繋がってしまう部分はあるにしろ、読んでいて気持ちいい。

それに読み終わると印象が反転する、タイトルのセンスも素晴らしい。

『希望が死んだ夜に』から本作まで6年弱読めていなかった作家だけど、コレを機に少しずつ未読を減らしていけたらなと。

本筋からは外れるけど、コレあらすじ書くの難しかっただろうなぁ、、、と。
テーマはしっかりあるんだけど、それを謳ってしまうと勘のいい読者なら真相がわかってしまうだろうし。
途中まで読んで、あらすじをもう一度読んでみると「あ〜、これ明言されてないんだぁ。ってことはやっぱそうだよなぁ」と、とある趣向を裏打ちしてしまう結果を招くことに。
僕はこれで確信してしまった。

色々言ってしまったけど、リーダビリティは抜群で、何より読み物としてとても面白いので、幅広い層にオススメできる1冊。

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